世界にはたくさんの課題があります。
子どもたちの人身売買、慢性的な貧困、そして医療を受けられずに失われてゆく命…
日本においても、病気を患っている子どもたちに対して心のサポートが行き届いていない現状があります。
今回は、海外と日本において、子どもたちを主な対象にさまざまな支援を手掛けている特定非営利活動法人「ジャパンハート」理事長の吉岡 春菜さんにお話を伺いました。
ジャパンハートでは、小児がんを患っている子どもたちの外出をサポートする活動のほか、ミャンマーやカンボジア、ラオスで、子どもを含む多くの命や、人生を救う活動に力を入れています。
国際協力や、途上国の子どもの未来を育む活動に興味のある方は、ぜひご一読ください。
小児がんと闘う子どもに思い出づくりのサポートを
ー本日はよろしくお願いします。まず初めに、ジャパンハートの活動のひとつ、がんと闘う子どもと家族のサポート「SmileSmilePROJECT(スマイルスマイルプロジェクト)」についてお聞かせください。
吉岡 春菜さん(以下、吉岡):SmileSmilePROJECTでは、小児がんを患っている子どもたちと家族のために、医療者が外出のサポートをしています。
たとえば、残された時間を兄弟の思い出づくりにあててもらったり、ご家族の思い出の場所にもう一度連れて行ったり、医療者がつき添うことで思い出をつくれるようお手伝いをしているんですね。
もともとは、小児がんのお子さんをお持ちだった、前川育さんの講演会に、当法人の最高顧問が参加したのがきっかけです。
前川さんは、もう30年ほど前にお子さんを亡くされて、各地で命の授業をされていました。
30年前は、患者さんが行きたい場所に行けるように医療者が配慮する、そういった時代ではなかったんですね。
前川さんのお子さんも、治療第一で家族との時間をあまり取れませんでした。
やはり酸素や、車椅子、どこかに器具がついていると、ご家族だけで外出するのは大変で、かといってたくさんの患者さんを抱えている病院の医療者がついて来てくれるかというと、個別対応は難しいのが現状です。
それなら、私たちのような病院の外にいる医療者がそれをお手伝いできるのではないかと思いました。
“教育・自立・医療”で子どもたちの未来を助ける
ー海外での子どもたちへの医療・教育活動についても教えてください。
吉岡:海外での活動は、主に教育・自立支援と、医療支援です。
教育・自立支援に関しては、HIVや貧困で家族を亡くした子どもたちを人身売買から守る養育施設Dream Train(ドリームトレイン)と、ミャンマーの視覚障害者の方たちの自立支援などをおこなっています。
自立するための仕事があまりないミャンマーの山岳地帯は、もともと大麻栽培が盛んだった場所で、大麻の密売で生計を立てる方も多かったんです。
しかし、そういったことが全面的に禁止されていくなかで、慢性的な貧困を抱える地域の子どもたちがブローカーに買われていく現状が未だにあります。
子どもたち自身も、家族をなんとかしたいと思い、分かっていながら売られていく状況もあり、幼いときは家事手伝いで済むのですが、年ごろになってくると女の子は売春させられたり、男の子だったら山岳部の兵士になったりするんですよ。
それを防ぐため、そうなる前に子どもたちを預かり、勉強したい子は学校に行かせ、早く自立して親のもとに帰りたいという子は就労支援をしています。
子どもたち一人ひとりに対して、日本から里親さんがついてくれているので、そのお金をもとにDream Trainを運営しています。
一方、視覚障害者については、日本だとあん摩マッサージや、いろいろな資格制度が優遇されていて、それによって自立されている方が多いですよね。
ですが、ミャンマーはまだそうした制度すらないので、村にいる視覚障害者の方は、危ないからと家のなかに閉じ込められていたり、玄関の前で門番のようにただ座っていたりするんです。
そこで、彼らに学びと自立の機会を提供できればと、外務省や、ミャンマーの保健省にも協力いただいて視覚障害者支援事業を実施しています。
ミャンマーには盲学校が何カ所もあるのですが、盲学校で点字や白杖の使い方を習っても、街なかに点字があるわけではないし、視覚障害者用に道が整備されているわけでもなく、盲学校に通わせるだけでもご家族には結構な負担になるのが実情です。
だからこそ、医療マッサージの資格を取って、開業できるところまでお手伝いできたらいいなと考えて取り組んでいるところです。
ほかには、カンボジアで、家庭の経済状況などで医療者になるための学校に行けない子どもたちのための奨学金制度もつくっていますね。
医療支援に関しては、ミャンマー、カンボジア、ラオスと活動地があり、貧困層の子どもたちや大人を対象に、小児がんや顔面・体の奇形、ヘルニアなど、さまざまな疾患を治すために外科手術をしています。
ミャンマーは、地元の病院の1フロアを借りた活動に加えて、現地の医療者で少数民族の多い遠隔地で出張診療と手術活動を実施しています。
カンボジアでは病院をつくり、小児がんのなかでも特に固形腫瘍手術について、手術などの治療をおこなっています。
小児がんは、日本では8割の子が元気になりますが、カンボジアだと現状2割程度しか助かりません。この格差、サバイバルギャップを埋めていこうと、積極的に活動しているところです。
それに加えて、免疫力が落ちている小児がんの子どもたちに、安全安心な食を届けることも医療と同じくらい大事だなと感じています。
カンボジアでは入院食の制度がなく、病院の周りの屋台などで提供される食事をとったことで感染症を起こして亡くなってしまうケースもあるのです。
そこで現地に給食センターをつくり、調理係の現地スタッフと、日本の栄養士さんで、清潔で栄養価の高いものを子どもたちに定期的に食べてもらっているんです。
活動に共感した支援者限定コミュニティ「ジャパンハート部」
ー今後、活動を応援したいと考えている方に向けて、なにかアピールポイントがあれば教えてください。
吉岡:ジャパンハートでは、毎月ご支援いただくマンスリーサポーター制度があるのですが、こちらにご登録いただいた方々のみ、ジャパンハート部という「部活」に入ることができるんです。
この部活では、それぞれの得意分野を活かして活動してもらっています。
部員向けにジャパンハートのスタッフや外部の専門家が講演会をおこなったり、学校の先生がDream Trainの子どもたち向けにオンラインで理科の授業を届けたりなどしています。
学びや、居場所、つながりができる、支援者限定コミュニティなので、ぜひマンスリーサポーターになっていただいて、ジャパンハート部を自由な活動の場にしていただけたら嬉しいなと思っています。
支援する側もされる側もみんなが幸せになるカタチを目指して
ー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
吉岡:大人の方に対しては、ぜひ少しでも国際協力への興味をもち、ジャパンハート部というすごく面白い場所を知っていただきたいですね。
また、その場所を活かしていただいて、途上国の子どもたちになにかを届けたいとか、自分の技能を通してなにか貢献したいことが少しでもあれば、お声をお掛けいただけたら嬉しいなと思っています。
私たちは、支援する側・される側という区切りはあまり感じていません。
寄付する人は表面的には支援する側ではあるのですが、支援したときに支援してよかったなと思ってもらえるような報告など、発信も工夫しているので、お互いに幸せになれる関係性がつくれるのではないかと思っています。
お子さんたちに関しても、きっと学校の学びのなかで疑問に思うことがあるかと思います。
そんなときは、自分の過ごしている生活の場以外に目を向けてみてください。
もし、海外の子どもたちはどのようにしているのだろうと考えたときは、ジャパンハートのホームページを見てください。そして、自分でもなにかやってみたいなと興味が生まれたら、気軽にお問い合わせいただけたら嬉しいです。
意外と中高生でもできることってあるんです。たとえば、BOOKOFF(ブックオフ)で使い終わったゲームや本を売って、NGOに寄付するキャンペーンもあるんですよ。
意外と身近なことから寄付活動や、チャリティ活動はできるので、そういったことに関心がある方は、ぜひ参加してください。
あと、学園祭などでも、なにかコラボレーションできたら嬉しいなと思っています。ジャパンハートというフィールドを上手く活かして、みなさんも、支援してもらう側にいる子どもたちも、一緒に幸せになれたらいいなと思っています。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:NPO法人 ジャパンハート