計算が苦手。もっと早くできたらいいのにと願う人は多いのではないでしょうか?
今回は、豊中市内に東豊中校、旭丘校、緑地校の3校、またオンラインでのそろばん教室を展開する「川西珠算学院」代表の川西一仁さんにお話を伺いました。
計算が早くできるようになりたいと思っている方は、ぜひご一読ください。
そろばん=時代遅れ?
本日はよろしくお願いいたします。まず、「川西珠算学院」についてお聞かせください。
川西 一仁さん(以下、川西):「川西珠算学院」は、私の父が1960年代半ばに創設したそろばん教室です。
私自身も小学生のころから7年ほどそろばんをやっていました。大会で優勝して「大阪一」の栄誉をいただいたこともあるものの、そろばんは好きではありませんでした。
だから、中学に入って間もない頃、父から「もうこれからは、そろばんの時代ではないから、辞めてもよい。普通に高校や大学へ行って、そろばんとは関係のない仕事に就け」と言われた時は、嬉しかったことを今でも覚えています。
そして、父の言葉どおり高校、大学に進学し、IT企業へ就職しました。
父の言葉にあったように、心のどこかで「時代遅れのもの(=そろばん)をやっていた」ということがずっと嫌でもありました。
だからこそ、自然と最先端の仕事であるITに目を向けたのだと思います。ただ、入社当時から10年程度で独立して起業しようという野心がありました。
サラリーマンキャリアの前半はエンジニアとして、後半は企業財務、会計、マーケティングなどのコンサルタントの業務に従事していました。企業経営に必要なものを実務の中で身につけていったという感じでしょうか。
予定通り2005年に起業準備を始めたそのタイミングで、川西珠算学院の経営をしていた父が亡くなります。また、同じタイミングで母が病気になり、入院・手術が必要という状況になりました。
当時は少ないながらも川西珠算学院には生徒がいましたので、母が治療に専念できるように、私が川西珠算学院の代行授業をおこなうことにしたのです。
授業の代行はあくまでも一時的なものとしか考えていませんでした。
ところが、代行授業をしたときに、子どもたちがとても楽しそうにそろばんをしているのです。そして、「そろばん楽しいの?」と聞いてみると、みんな声をそろえて「楽しい!」と答えたのです。
そろばんが嫌いだった私にはとても衝撃的な言葉でした。
それだけではなく、子どもたちは「僕、大人になったらそろばんの先生になりたい」「私もそろばんの先生になりたい」と言ったんです。
2005年のそろばん教室というのは、もう誰が見ても斜陽産業という状況です。
しかし、目の前で楽しそうにそろばん学習する子どもたちを見て、「そろばんの先生という仕事を、誰もが憧れる仕事、やっていて誇れる仕事にしてあげたい」と考えるようになりました。
そろばん業界を外から見ていたときも、「なんてもったいない業界なんだろう」と常々思っていましたし、そろばんの持つコンテンツパワーは本物だとずっと思っていたからです。
それで、恩返しというほどの大そうなものではありませんが、少しでもそろばん業界がよい方向へ向かうことを願い、その為の一助になればよいなとそろばん教室を継ぐことにしました。
なにより、そろばんを頑張っている子どもたちに、そろばんをやっていたことを誇れるようにしてあげたいなという思いからはじまったのが私のそろばん第二幕でした。
知能・知識・知恵の違い
ー川西珠算学院ではどのような取り組みをおこなっているのでしょうか?
川西:私がはじめに取り組んだのは、そろばんというコンテンツを違うベクトルに乗せる活動で、具体的には「海外進出」と国内は「シニア向けの認知症予防事業」です。
結果的には海外で培ったそろばん教育事業や、認知症予防を目的としたそろばんの使い方のノウハウを転用することで、国内の子ども向けも、従来のような珠算一辺倒ではなく、脳力開発や知能育成、あるいは幼児向けの教育メソッドを構築することに成功しました。
川西珠算学院は55年以上の歴史があり、競技大会などで優秀な成績を収めていた時代もありますので、伝統的で本物の珠算教育ノウハウを有しています。
そして現在、本物の珠算教育の礎のうえに、珠算だけではない、社会に出て本当に役に立つ能力育成のためのそろばん教育を提供しています。
ところで、皆さんは「知能」「知識」「知恵」をきちんと使い分けられますか?
「知能」とはスポーツで言う運動神経のようなもので、ある程度は持って生まれた能力ですが、適切な教育である程度高めることは可能です。
「知識」とは事柄を知っているかどうかということ。そろばんや算数関連で言えば九九。数字の読み書きも知識です。
知識は後からいくらでも取り戻すことが可能です。知識偏重教育だったり、知識を先取りする教育は百害あって一利なしと断言してもよいでしょう。
じつは、そろばん学習は数字を知らなくてもできるんですよ。当学院の幼児教育では、その辺りの特性も利用したものになっています。
そして「知恵」とは自分の持っている知識を自分の知能と掛け合わせることで産み出す力のこと。
当学院が重視する「基礎脳力」は、この知恵を高めることにフォーカスしています。
「基礎脳力」という言葉は当学院が名付けた言葉で、これはスポーツで言う基礎体力に相当するものです。
多くのスポーツにおいて、技術がいくらあっても、基礎的な体力がないと話になりません。勉強でも同じことが言えます。
この基礎脳力を高めるためには子どもたちの学習への取り組み方や、学習カリキュラムも極めて重要です。
通塾のほか、オンライン、ハイブリッドコースも
ーどのようなコースがあるか教えてください。
川西:2020年より新型コロナウィルスの影響もあり、オンラインコース、ハイブリッドコース(オンラインと通塾兼用)も開設しました。
オンラインに関しては、開設当初は指導という点で難しい面があったものの、今ではスムーズに、教室で受講するのと同等の高品質なレッスンを提供することができています。
最近では「オンラインと通塾兼用のハイブリッドコース」で学力を伸ばす生徒が、増えていると感じることが多くなりました。これは想定外の嬉しい誤算で、私の想像以上の教育効果でした。
当学院は近隣他市からの通塾生が多いこともあり、通塾回数を減らすことができるという点でのメリットもあります。
高い教育効果を得ることができる上に、保護者の方のご負担の軽減にもつながっているようです。
ーカリキュラムについても、教えてください。
川西:珠算式の暗算について、よく誤解をされている方がいます。珠算式暗算は珠算を習えば自動的に身につくものではありません。
きちんとしたカリキュラム、ノウハウで珠算式暗算の練習をする必要があるということです。
同じように、フラッシュ暗算の練習をしていれば珠算式の暗算が自動的に身につくというのも誤解です。
とても残念なことですが、そろばんを習い、フラッシュ暗算の練習もしてるのに、全然身につかないという保護者の声を聞くことが多くなりました。
いくらフラッシュ暗算用のパソコンが教室に置いてあっても、幼児教育や初等教育の知識を含めたきちんとした理論の下、練習をしないと思ったような効果が得られないということは覚えておいて損はないでしょう。
そもそも幼児教育(就学前教育)と初等教育(小学校での教育)は違いますが、このふたつが意外と同じ目線で語られることも多いようです.
川西珠算学院では、幼児教育と初等教育の違いを踏まえた上で、しっかりとした教育理論のもと、一人ひとりに応じたカリキュラムを作成して珠算や暗算指導をおこなっています。
子どもたちの脳の発育スピードには個人差があります。特に乳幼児から10歳くらいまでの個人差は極めて大きいのが実状です。
当学院では「早熟型の脳」「晩成型の脳」という表現をしていますが、晩成型の脳が劣っている訳ではありません。
晩成型の脳の子どもであっても、その子どもに合った学習を最適なスピードでさせてあげることで、少なくとも理数科目への嫌悪感などは発生せずにすみます。そしてじっくりと理数科目への学習に取り組む礎を身につけることは可能です。
「一人ひとりの脳の発育スピードに合ったカリキュラムで学習を進めることが極めて大切」で、そのことが結果的に子どもたちの能力を最大限伸ばすことにつがるのです。
子どもの力を信じる
ー最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
川西:そろばんに限らず、勉強などの教育において、親は子どもの学習をどんどん先に進めたがります。
しかし、知識の先取り教育は弊害が大きいのです。もちろん、子どもの意欲と学力が追い付いていれば、どんどん先に進めるべきです。
しかし、そうでない場合、先に先に進めようとすればどうなるか。
その前に身につけておくべき学習の基礎があやふやになるので、難しくやる気が起きなくなってしまいます。
しかし先のことをさせられ、さらに難しくなると、勉強が嫌いになります。
本来、勉強は楽しい面もあるはずなのに、こんな悪循環に陥ってしまいます。
基礎固めを絶対疎かにしてはいけません。これでもかというほど、基礎を大切にするということです。
基礎固めというのは、大人から見ると、同じ部分を何度もやっていて意味があるのだろうか、単純な繰り返しでつまらないのではないかと思う事でしょう。大人目線ではそう感じるのも無理はありません。
大人はできないことをやらせたがりますが、子どもはできることをやりたがるものではないでしょうか。
「子どもがやっていて、できること」は基礎固めにつながっているケースが本当に多いです。
そして子どもはできることが楽しいので、やる気がでます。
そのタイミングを見て次のステップの学習に進めることで、子どもたちの学習に対する取り組み方を意欲的で効果のあるものに変えることができます。
子どもの力を信じてあげましょう。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
取材協力:川西珠算学院