「クイズ」と聞くと、子どもの遊びの延長というイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
しかし、クイズと勉強法には意外な共通点があるんです。
今回は、日頃の情報収集法やクイズ問題の作成方法など、インプット・アウトプット術をご紹介します。
この記事が、学びのサイクルを生み出すヒントになれば嬉しいです。
はじめに
みなさんはじめまして。徳久倫康(とくひさ のりやす)と申します。
普段は株式会社ゲンロンという、ちょっと変わったベンチャー企業で働くかたわら、趣味でクイズをしています。
今回はこの「クイズ」について書きたいと思います。
クイズが趣味だと言うと、勉強や暗記が好きなのだと思われることがあります。実際にそういう勤勉なタイプもいますが、私のように、机に向かって勉強するのが苦手な人もたくさんいます。
自分自身について考えてみると、記憶力はぜんぜんよくないし(むしろ物忘れが多いほうです)、受験勉強もちゃんとしなかったし、とてもクイズに向いているようには思えません。
でも実は、勉強が得意でない人でも広くいろいろなことを学べるのがクイズのいいところなのではないかと、私はひそかに思ってきました。
自分が解答者にも出題者にもなる「競技クイズ」
「クイズ」という言葉から、みなさんは何をイメージされるでしょうか。
クイズはとても幅の広い概念で、クロスワードや数独のようなペンシルパズルから、テレビでよく見るような早押しクイズまで、いろいろなものを含んでいます。
どれもそれぞれに魅力的な遊びですが、なかでも私が力を入れて取り組んでいるのは、早押しを中心とした、主に「競技クイズ」と呼ばれるものです。
実は競技クイズをするサークルは全国にあり、大会も頻繁に開かれています。私もサークルに参加し、各地の大会に積極的に足を運んでいます。
クイズは性に合っていたようで、幸いにも多くの大会で実績を残すことができ、それが縁でテレビ番組に出演させていただいたり、クイズについて雑誌に書く機会をいただいたりすることもあります。
「競技」と大上段に構えてはいるものの、かっちりした統一ルールが決まっているわけではなく、会合によってやりかたはまちまちです。
どんな問題が出題されるか、何問正解すれば勝てるのかなど何も定まっておらず、主催者の裁量に任されています。実はこの自由さこそが、競技クイズの美点のひとつです。
特に面白いのは、参加者がときに出題者の側に回ることです。テレビ番組であれば当然、問題を用意するのは番組の制作側で、出演者は出題された問題に答えるだけです。
しかし、クイズ大会には専属の作家がいるわけではありません。イベントを開きたいと思ったら、自分たちで問題を用意する必要が出てきます。
クイズを趣味にしていると、多くの場で解答者を務めることになりますが、一方でときどき出題者にも回ることになります。10年近くこのサイクルに身を置いて、「なるほど、これはよくできた学びのサイクルだな」と思うようになりました。
これは一体どういうことでしょうか?紐解いていきましょう。
クイズは学びに向いている?勉強法との共通点
実は私は勉強法について書かれた本を読むのが好きで、和田秀樹さんの『受験は要領』を中学時代に読んで以降、かなり多くの書籍に目を通してきました(勉強そのものが好きなわけではなかったので、成績は特によくなりませんでした)。
結果としてわかったのは、ほとんどの本に「覚えたいことには繰り返し触れるのが大切」「インプットするだけでなくアウトプットしたほうが効率がよい」と書かれているということです。
それ以外のテクニックもたくさん紹介されているのですが、ほぼ例外なく書かれているのがこのふたつで、あとは目的に応じたチューニングにすぎないのではないかと思っています。
そして幸いなことに、趣味としてのクイズは、このふたつを自動的に満たしてくれるのです。
もちろん私たちクイズプレイヤーは「効率よく勉強するため」にクイズをしているわけではありません。
でも私たちのやり方は、もしかするとクイズプレイヤー以外にも、学びのヒントになるのかもしれません。
クイズに強くなる方法は?「好奇心の網の目」を少し細かくする
もう少し具体的に見ていきましょう。
「クイズに強くなりたい」と思ったら、何をしたらいいのでしょうか。
すぐに思いつくのは、以下の3つです。
1 実際にクイズをする
2 クイズに触れる
3 クイズに出そうな情報を集める
1は単純ですね。
2は、出版されている問題集を読んだり、クイズ番組などの動画を見たりすることを指します。
クイズをするときに録音をして、のちに聞き直すという勉強法も一般的です。
特に早押しクイズは「耳で聞いて適切に反応できること」が大切なので、耳で覚えるというのは合理的なアプローチのように思われます。
さきほど勉強法について、多くの本で触れられているふたつの原則について書きました。そのふたつに加えて、これもまたよく見かけるのは、「いろいろと方法を変えてインプットしたほうが記憶に定着しやすい」ということです。
たとえば英単語を覚えたいとしたら、目で見るだけではなく、ノートに何度も書き写してみたり、口に出してみたりするのもするとよいというわけです。
こう考えると、ときに印刷されたペーパークイズに答えたり、読み上げ式の早押しクイズに答えたりするのは、記憶に定着させるうえでは合理的な気がします。
3は2とは違い、クイズ以外のソースから情報を見つけてくること(できれば頭に入れておくこと)を指します。
クイズでは時事的な問題が出題されることが多いですし、ただ単に過去問ばかり覚えていれば対処できるというものではありません。
なるべくアンテナを張って、クイズをしていないときでも、「知っておいたほうがよさそうな情報」を集めておくのが大切です。この意識があると、普段、私たちがいかに多くの情報を見過ごしているかがよくわかるようになってきます。
もちろん、すべての情報をいちいち吟味していては非効率すぎるので、無意識のうちに要不要を判断するのはとても大事な能力です。
しかしその一方で、ぼんやりと見逃したり聞き逃したりしている情報のなかにも、知っておくべきものが隠れているのも事実です。
私自身クイズをやっていると、もともと興味のなかったゲームやスポーツ、学問分野などについて、半ば強制的に触れる機会がよくあります。
その結果、今までであれば気に留めなかったジャンルの事柄が、いつのまにか目に留まるようになることがあるのです。
私たちが触れる情報を「流れる大河のようなもの」だとたとえれば、そこに置いておく網の目を少し細かく、より均一になるようにするものだと思ってもらえるといいかもしれません。
とはいえ、あまりに細かくしてしまうと今度は目詰まりを起こしてしまうので、ある程度のバランスでとどめておくことも大切です。
そもそも、情報の価値を「クイズに役立ちそうかどうか」だけで判断するのは危険すぎます。あくまで網の目は「少し細かく」するにとどめましょう。
クイズプレイヤーのインプット法
ずいぶん抽象的な説明になってしまったので、具体的なインプットの例も示しておきましょう。
【1】ウェブでも街中でも、気になる情報をメモに残す
たとえば私の場合は複数の新聞の電子版を購読しており、これが毎日の情報収集のベースになっています。
1日何通かヘッドラインをまとめたニュースメールが配信されるので、目に留まった記事はクリックして、ウェブブラウザのタブを開いておくことにしています。タブは移動時間や空き時間などに読んで消し、控えておいたほうがよい情報があればスマホのメモに書いておきます。
新聞以外の情報源についても似たような扱いで、SNSや雑誌、あるいは街中で気になる情報を見かけたときも、対象のURLを開いておいたり、単語をメモしたりするようにしています。
こういうふうに書くととても勤勉に聞こえるかもしれません。しかし実際には、開いておいたタブのうち、実際に読んでいるのは20%くらいです。
毎日どんどん増えるので、さかのぼるのはあまり現実的ではありません。たまに大掃除の気分で一気に読み返すことはありますが、何カ月も放置して情報が古くなっていることも多いです。
まったく褒められたことではないのですが、私はこのくらいの「ゆるさ」で取り組んでいるからこそ、無理なく学び続けられているのだと自己認識しています。
私より勤勉な性格であれば、もっとシステマチックにやってもいいでしょう。それぞれの性格にあった範囲で継続するのが肝要です。
【2】趣味だからこそゆるく、マイペースで学ぶ
入試や資格試験のための勉強であれば、このようなゆるさで取り組むことはおすすめできません。すべきことを逆算し、こつこつとこなしていくのが最善です。
競技クイズでも、こういった取り組みが求められることはありえます。たとえば大きな大会があるとか、番組の収録があるというときです。
ただし、クイズには学習指導要領や教科書があるわけではないので、どこまで行っても学び切るということがありません。
なので私は、ひとつひとつの局面で無理な詰め込みをするよりも、自分にできるペースで守備範囲を広げていくほうが、最終的には理にかなっていると信じています。
あらゆる学びはしょせんは趣味です。しかし趣味こそが、私たちの人生を豊かにしてくれるものであるはずです。
趣味だからこそ、適切な距離感でつきあい続けていきたいものですね。
クイズプレイヤーのアウトプット法
さて、ここまでは主にインプット法について説明してきました。最後に、アウトプット法についても説明しましょう。
クイズには大きく分けて、
1 解答
2 出題
のふたつのアウトプットがあります。
【1】記憶を定着させる機会になる「解答」
1はわかりやすいですね。出された問題に答えるというもので、これは受け身のアウトプットです。何に答えるかを選ぶことはできません。
しかし、単に「知っていることを答える」というだけでも、その情報についてあらためて記憶に定着させる機会になりますし、十分に意義はあります。
クイズをやっていて気付かされるのは、自分の頭のなかにある知識は、「聞かれることで初めて出力できる」ものがほとんどだということです。
問いを向けられなくても自由に引き出せる知識というのは、せいぜい自分の専門分野や得意ジャンル、身近なことなどです。それ以外の莫大な領域については、自分が知っていることすら忘れているものです。
こういった、もはや自力では意識できないようなことを、問いをきっかけに思い出すというのは、クイズの醍醐味(だいごみ)のひとつです。
【2】対象への理解度が格段に増す「出題」
2は想像しにくいかもしれません。最初に触れたように、私たちが普段、参加しているイベントの問題は、アマチュアが趣味で作成したものがほとんどです。私自身もときどき出題側に回ります。
自分が作ったクイズに答えてもらうというのは独特の経験で、狙い通りに答えが出ればうれしいし、思ったよりも早く押されて答えが出ると驚くし、意図と違うミスリードで誤答になってしまうと残念だし…悲喜こもごもです。
問題を作るのはかなりの手間がかかるのですが、それでも出題側のほうが好きだという方もたくさんいます(私もそうかもしれません)。
クイズに強くなる方法を聞かれたときには、私は多くの場合、問題を作って出題することをすすめるようにしています。時間も手間もかかりますが、得られるメリットは間違いなく大きいです。
勉強法の本でアウトプットの大切さが必ず説かれているのは上で述べたとおりですが、そこでよく推奨されているのが、「勉強したことを人に説明してみる」というアプローチです。
人に説明しようとすると、学んだことを筋道だって組み立て直す必要が出てきます。単なる辞書的な記述をそのまま読み上げるのでは聞き手が退屈してしまいますから、きちんと自分の言葉で噛み砕かなければなりません。
人に説明するというのはそう簡単なことではなく、だからこそ勉強になるし、忘れにくくなるというわけです。 実はクイズを作るというのは、これによく似た行為です。
出題したい情報があったとして、どういう切り口で問うか、どういう情報を盛り込むか、情報の順序はどうするかなど、考えるべきことが山のようにあります。
これをきちんと意識して文章のかたちにすることで、対象への理解度は格段に増します。
【3】クイズ作成例:試行錯誤でより詳しく、記憶に残りやすくなる
実際にクイズを作ってみましょう。
先日、ショパン国際ピアノコンクールが行われました。カナダ出身のブルース・リウさんが優勝、日本からも14人が挑戦し、反田恭平(そりた・きょうへい)さんが2位入賞を果たしました。
こういったニュースを目にしたとき、どんな問題が作れるでしょうか。
大切なのは、まずクイズを「どこで」「だれに」出すのか、ということです。
きょう食事どきに家族に出題するのか、あすピアノを習っていた友だちに出題するのか、来月クイズ初心者向けのイベントで出題するのか、半年後ベテラン向けクイズ大会で出題するのか―。
せっかくいい問題でも、適切な場所でなければ魅力を発揮することはできません。
来月開催のクイズ初心者向けのイベントであれば、こんな問題がスタンダードでしょうか。
【問題】今年(2021年)の第18回では反田恭平が2位に入賞した、ポーランドで行われる国際的なピアノのコンクールは何でしょう?
【正解】ショパン国際ピアノコンクール
素直な時事問題です。もう少し親切に、「有名な作曲家の名前を冠した」などの情報を入れる手もあります。1カ月後に出すならいいですが、半年後だとこのままではタイミングを外したトピックという印象を受けるかもしれません。
前段を、【問題】日本人では中村紘子(なかむら・ひろこ)や反田恭平などが上位入賞を果たしてきた~、とすると、少し時事的な要素を薄めて、「いまさら感」を回避しやすくなります。
入賞者はたくさんいるので、なるべく知名度の高い人を出して、答えてもらいやすくしたいところです。
そもそも日本人ばかりを切り口にするのはどうか、という考え方もあるでしょう。反田さんのニュースを離れてもっとスタンダードに、
【問題】現存する国際ピアノコンクールとしてはもっとも長い歴史を持つ~、などとする手もあります。
少し難易度は上がりますが、反田恭平さん自体を答えにしてもいいかもしれません。ひとつふたつ情報を盛り込んでもいいでしょう。
【問題】特徴的なヘアスタイルや体幹トレーニングなどの自己プロデュースに取り組んでいる、今年のショパン国際ピアノコンクールで2位に入賞した日本のピアニストは誰でしょう?
【正解】反田恭平
上級者向けのイベントで出すならば、もう少し難しい答えを設定したくなります。反田さんは「51年ぶりの2位入賞」と報じられていました。ということは、51年前に偉業を達成した人がいるはずです。
【問題】反田恭平に先立つこと51年、日本出身者として初めてショパン国際ピアノコンクールで2位に入賞した、現在はイギリスを拠点に活躍するピアニストは誰でしょう?
【正解】内田光子(うちだ・みつこ)
この出題の仕方は、解答者側が反田さんについて知っていることを前提としています。こういう共通理解のもとに出題してよいのかは、まさに、「どこで」「だれに」出すかに依存します。
内田光子さんは世界的に著名なピアニストなので、詳しい人は反田さんのほうが有名であるかような扱いに疑問を持たれるかもしれません。こういう場合は、最初の情報を外したほうがいいでしょう。
…といった具合に、ひとつのニュースを見かけても、そこからどんな問題を作るのかには無数のアプローチがあります。
こうして試行錯誤する過程で、まず記事に書かれていないことにも詳しくなれますし、自分の頭を使って問題文を練り上げると記憶にも残りやすくなります。
実際に出題してみると、さらに効果は高まります。「あのとき◯◯さんに出して答えてもらった問題だ」という記憶は、自分の体験そのものです。
海の向こうで起きたニュースを、いつのまにか経験に落とし込むことができるというのが、クイズの素敵なところです。
クイズによって私の世界はぐっと広がった
第3回Knock Out~競技クイズ日本一決定戦~(C)東北新社
さて、ここまで詳しく、クイズプレイヤーが日常的にどんな取り組みをしているのかを、実例を挙げて見てきました。
考えれば考えるほど、クイズについて考え、答え、問題を作るという営みは、学びのうえで理屈にかなっているように思えてきます。
もちろん、クイズに落とし込みやすいものごと、落とし込みにくいものごとはありますし、受験勉強のようなものには向かないでしょう(部分的に応用できるところはありそうです)。
しかし、知的好奇心をもって、世の中のいろいろなことを見たい・知りたいというぼんやりとした欲求には、ちょうど適したやり方なのではないでしょうか。
しょせんクイズでは学べることは、薄く広く、が限界かもしれません。しかし少なくとも私の世界は、クイズによってぐっと広がり、鮮明になりました。
この記事がみなさんの学びに資するところがあれば、これ以上の喜びはありません。
編集:はてな編集部