スマートフォンやタブレットの普及により、子どもたちは遊びも学習もデジタルが一般的となり、家にいる時間が増えてきています。
公園などで遊んだり、ご近所のおじいちゃん、おばあちゃんとの関係性が希薄になっている今、熊本県熊本市にあるNPO法人「子育ての森」では、積極的に地域住民との交流を図るべく、さまざまな活動をおこなってます。
今回は、代表の東 真理(ひがし まり)さんに「公民館で駄菓子屋さん」という活動をメインにお話を伺いました。
熊本市にお住いの方、子ども同士、地域住民の交流に興味のある方は、ぜひご一読ください。
世代を超えた交流ができる「公民館で駄菓子屋さん」
ー本日はよろしくお願いします。まずは「公民館で駄菓子屋さん」の活動内容について教えてください。
東 真理さん(以下、東):家の近くの公民館って、そこに住んでいる人なら誰でも使える公共施設なのですが、ほとんど使われていないんです。
子どもたちが使うのは地域のクリスマス会や歓迎会など年に1、2回で、自治会の集まりや老人会の会合で使うことがほとんどですよね。
昔は近所で第3者のつながりがあったのが、今は公園で遊んでいる子ども、日向ぼっこしながらベンチに座っている老人の姿を見かけなくなりました。
町のお年寄りの意見としては、どこにどの子が住んでいるのかもわからない、見守ってあげたいけど、どこにどの子が住んでいるのかもわからない。
どうしたらご近所同士のつながりができるのかなと考えたときに、最初は子ども食堂を考えたのですが、人手もお金もかかります。継続できるよう、経費がかからずにするにはどうしたらいいんだろうと考えたときに「駄菓子屋さん」を思いつきました。
大人から子どもまで、駄菓子が並んでいるとワクワクしますから、これは集客力があると。誰でも気兼ねなく立ち寄れて、地域の人たちに馴染みがあるのに、あまり活用されていない場所ということで公民館を選び、「公民館で駄菓子屋さん」がスタートしました。
駄菓子屋さんを運営するのは私たちですが、その地域に住んでいる子育て世代、おじいちゃん、おばあちゃんたちが来られるので、そこでコミュニケーションが生まれるんですよね。
「公民館で駄菓子屋さん」を開催するときは、町内の回覧板にチラシを入れて告知します。すると、最初は保護者の方に連れられて子どもたちが来ますが、回を重ねていくと、大きいお兄ちゃんお姉ちゃんたちが小さい子の手をひいて、子どもだけで遊びに来るようになります。
ーお子さんたちはわくわくしながら駄菓子を買っているのでしょうね。
東:実は、この活動をしていて、自分で買い物をしたことがない子どもが多いことに気付いたんです。しかも今は消費税があるから、昔みたいに10円20円の単位で買えないですよね。
子どもにとって100円以内で買い物をすること自体がなかなか難しく、しかも暗算ができない子も多いので、紙に書いて計算するんです。
ただ、頭の中で計算することって教育的にはすごく大切なことだと思うので、暗算は子どもの学習になっているのかなと思います。
暗算ができない子には、「頭の中でできないんだったら手があるでしょう。手を使ってごらん。」「手の指が足りなかったら、お友達の手を借りてごらん」といって促します。
いろんなものを駆使して、楽しみながら計算ができるようになりますので、遊びではあるけれど、学習の要素が入っているのが特徴ですね。
それから「公民館で駄菓子屋さん」では、誰でも計算できるように、100円の参加費をいただき、300円までしか買っちゃいけないというルールを設けています。
100円玉をまず参加費の券に交換するという作業をして、子どもたちはその100円券分のお菓子を計算しながら買っていきます。
毎月第3日曜日に横手五郎公民館で開催していますが、今後は湯の花公民館でも毎月第1日曜日に開催する予定ですので、お近くの方はぜひ遊びにいらしてください。
「止まってくれてありがとう運動」で交通安全の啓発を
ー子育ての森でおこなわれている「止まってくれてありがとう運動」についても教えてください。
東:子育ての森は、中小企業の社長さんたちと一緒に立ち上げた団体なのですが、彼らは会社周辺の掃除以外にも何か社会貢献活動をしたいと。でも、何をすればいいのかわからない、と言われていまして。
ある時、子どもの交通事故による死亡率は鳥取県が一番低い、ということを知ったんです。鳥取県は、信号機のない横断歩道で歩行者が立つだけで車が止まるんです。なぜ車が止まるかというと、歩行者が車に向かって頭を下げるからなんです。
熊本県はワースト何位かに入るくらい子どもの死亡事故が多いので、鳥取県の事例を活かせないものかと。そこで、企業の社長さんたちにお話をして出資していただき、交通安全の啓発活動をおこなうことにしたんです。
小さな子どもたちも理解できるよう紙芝居にして、先ほどお話しした「公民館で駄菓子屋さん」などで上演したりしています。現在、企業の方たちのご支援もあり、紙芝居の内容を絵本にして出版しようと考えている最中です。
この「止まってくれてありがとう運動」が全国に広がることで、子どもの死亡事故の減少につながればと思っています。
それから、企業の方たちには、朝の散歩を子どもたちの登校時間にあわせてもらうようにお願いしているんです。
最近は朝夕の子どもの見守りをする方が増えてきましたが、企業の方たちが朝の散歩時間に子どもたちに挨拶することを続けてくだされば、ゆくゆくは顔見知りになって、会話が生まれるだろうと。それが地域全体での見守りにつながると思っています。
活動を通じて子どもの精神的な貧困をなくしたい
ー最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
東:SDGsの1番目の取り組みに、「子どもの貧困をなくそう」というのがあります。子育ての森の活動は、その子どもの貧困をなくす活動だと思っています。
日本の場合、食べ物で貧困な子どもは少ないと思いますが、精神的な貧困の子どもは結構多いのではないでしょうか。
精神的な貧困、つまり愛が足りない子どもたちがいるんじゃないかと思っています。愛情は親だけからもらうのではなくて、ほかの人からももらえるものです。
みんなが少しずつ、やさしい気持ちで子どもたちにちょっとだけ愛情を注いであげれば、子どもの心の貧困は防ぐことができるように思います。
「公民館で駄菓子屋さん」や「止まってくれてありがとう運動」などがそのきっかけになればと思っています。
私たちの活動に興味を持たれた方は、ぜひイベントに参加していただきたいですし、自分の住んでいる地域で「公民館で駄菓子屋さん」をやりたい!という方がいらっしゃれば、ノウハウをお教えてしますので、ぜひご連絡ください。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:NPO法人 子育ての森