2011年の東日本大震災以降、日本人の防災意識は大きく変わったといわれています。
近年も2016年の熊本地震や2019年の千葉県を中心とした大雨などがあり、予期せぬ自然災害に備えて、日ごろから防災意識を持っておきたいもの。
一方で、「防災対策といっても、何から始めればよいのかわからない…」という方も珍しくありません。
今回紹介するNPO法人安全安心まちづくり研究会は、福岡県を中心に数々の学校や企業・組織を対象に防犯スポーツ教室®を開催しています。
各種メディアでも防犯・防災意識の大切さを呼び掛けている代表の坂本一成さんに、同団体の取り組みについて伺いました。
「逃げ方」を教える新しい形式の防犯教室
ー本日はよろしくお願いします。まずは防犯スポーツ教室®を開始した経緯を教えてください。
坂本さん(以下、坂本):防犯スポーツ教室®は東日本大震災が発生した2011年の10月に、福岡県福岡市の公立小学校から始まった取り組みです。
これまで子ども向けの防犯教室といえば、「イカのおすし」(※)という有名な防犯標語を基本に、座学や寸劇による講習が中心でした。
※防犯上、有効な行動指針「いかない・のらない・おおごえをだす・すぐにげる・しらせる」の頭文字をとった防犯標語。
しかし、この形式では子どもは犯罪被害や災害を自分ごととして考えられず、講習の途中で集中力を失って友達とふざけ始めてしまうのです。
危機意識を持ってもらうためには、子どもたち自身に自分を守る体験をしてもらう必要があると考え、防犯スポーツ教室®を企画しました。
この教室では、いざというときに素早い判断ができること、逃げること、隠れること、断わること、諦めないこと、危険から逃げられることを養う等の習慣性を身につけることを目的としています。
ー防犯スポーツ教室®では具体的にどのようなことをされていますか?
坂本:不審者の見抜き方や遭遇した場合の対処法といった、「逃げ方教育」がメインです。
最も被害が多い通学途中の犯罪を未然に防ぐためには、逃げ方を含めた警戒動作を身につける必要があると考え、プログラムにも取り入れています。
本教室は離脱テクニックや逃げ方ゲームといった、大人が学ぶ護身術とは少し異なる要素が特徴です。
ほかにも不審者や災害に遭遇した際、いかに早く逃げ、どこに隠れるべきかを総括的に判断する、鬼ごっこやかくれんぼも実施しています。
スポーツトレーナーの友人や警察官の理事や警察OBから得た情報をもとに、どのゲームにも子どもたちを飽きさせない工夫を盛り込んでいるので大変好評です。
人や建物、地域住民の防犯対策にまつわるさまざまなセミナーを全国各地で展開
ー福岡県以外でも防犯教室をおこなわれているのでしょうか?
坂本:はい、10年前から防犯セミナーの講師として活動を開始しました。それをきっかけに全国の小学校や中学校、幼稚園、保育園などの教育施設での防犯スポーツ教室®の開催は全国で200程度、一般の防犯セミナーは1,000回以上を開講してきました。
そして10年ほど前に福岡市の防犯アドバイザーの登録、3年前に福岡県での防犯アドバイザー登録をさせていただき、福岡市内、福岡県内の防犯アドバイザーの活動が特に増えています。
福岡県を中心に熊本や山口、また東京や神奈川、静岡、千葉、埼玉、宮城と、東日本エリアまで展開しています。 岡山、大阪、兵庫での開催が決定していますので、このまま規模を広げていきたいですね。
コロナ禍では、オンラインとリアルのハイブリッド形式で防犯教室を開催しましたが、結果的に成功を収め、今では防犯スポーツ教室®の開催が200校程度にまで拡大することができました。
NPO法人安全安心まちづくり研究会が開いているのは、子ども向けの教室だけではありません。SNSトラブルやストーカー被害に遭わないための女性向け防犯教室、また元警察官や大学講師の方による、戸建て住宅やマンション、アパートの防犯対策セミナーも開催しています。
―防犯スポーツ教室®を受講した子どもや保護者の反応はいかがですか?
坂本:先生に手を掴まれたらパッと逃げたり、捕まらないように逃げたりすることに、ワクワク、ドキドキしながら楽しく学べたという感想をいただいています。
私たちはこの教室を親子参加型の防犯スポーツ教室®と認識し、保護者への参加も呼び掛けているんです。
また、教室開講後は保護者にもう一度子どもと体験してもらうようにお願いをしています。その様子を親御さん同士で動画に撮影し、SNSやLINEで発信してもらいましたところ、ほかの保護者からも大変喜ばれました。
自分の子どもが逃げる姿を実際に見て、ためになったという声もいただいています。
万が一の事態が起こった場合、子どもが捕まってしまったり、犯罪被害に遭うことは一番恐ろしいことです。
そのため、普段からゲーム感覚で子どもの手を掴んだり、追いかけたりすると、逃げ方教育にも、家族のスキンシップにもなってよいと考えています。
一生忘れない防犯・防災教育の必修化を目指して
ー近々開催予定のイベントがありましたら教えてください。
坂本:11月は福岡市内の小学校で防犯教室、同月下旬には熊本県内の小学校でPTA主催の防犯教室を企画しています。
また、12月には福岡市内の公民館で住宅侵入や振り込め詐欺対策講座も開催予定です。
ー今後の展望についてもお聞かせください。
坂本:この逃げ方教育をプログロム化し、体育の授業などに取り入れていただけるような活動を展開していきたいです。
たとえば子どもの頃に習得した自転車の乗り方は、大人になっても忘れませんよね。逃げ方も、自転車の乗り方と同様の存在であってほしいと思っています。
そのためには、子どもにとって身近な存在である先生や保護者が防犯の基礎知識を学び、伝えていく必要があると感じています。
大人の防犯教育が次世代を担う子どもたちを救う
ー最後に読者へメッセージをお願いします。
坂本:政府は2030年に向けてSDGsの達成目標を掲げていますが、期限まであと9年となりました。
住み続けられるまちづくりを推進するためには、質の高い防犯教育が必要と考えています。私たち大人が責任をもって、次世代を担う子どもたちが安全かつ安心に暮らせる街をつくり、若い世代へとバトンタッチしていきたいですね。
そのためには、今働き盛りの子育て世代が子どもたちの安全教育に向き合い、安全を守る第一人者になっていただく必要があります。
私たちの取り組みにご賛同いただける方は、ぜひ会にもご参加ください。
今後は書籍の出版など、さまざまな方法で防犯関連教育情報を発信していく予定ですので、一緒に盛り上げていきましょう。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■ 取材協力:NPO法人 安全安心まちづくり研究会