各家庭にテレビやパソコンが普及した現代では、子どもたちが外に遊びに行く機会が少なくなり、地域コミュニティの衰退が問題視されています。
食生活においても、スーパーやコンビニなどに行けば食べたいものがすぐに手に入る時代です。
時代の移り変わりで食べ物のありがたみや地域コミュニティの関係が薄れていくなかで、岡山県真庭市で活動するNPO法人「真庭あぐりガーデンプロジェクト」は、農業体験やワークショップを通して子どもたちへ食の大切さを伝えたり、地域とのつながりを広げたりする機会を提供する子育て支援事業をおこなっています。
今回は、NPO法人「真庭あぐりガーデンプロジェクト」事業部リーダーの藤原 友規子(ふじわら ゆきこ)さんに、団体の活動内容や今後の展望などについてお話しを伺いました。
真庭市の子どもたちに自然体験の場を提供
―本日はよろしくお願いします。まずは、NPO法人「真庭あぐりガーデンプロジェクト」の概要について教えてください。
藤原 友規子さん(以下、藤原):私たちは、岡山県真庭市にある“真庭あぐりガーデン”という場所に拠点をおいて活動している団体です。
真庭あぐりガーデンは、真庭市の農家を応援したいという想いから、2015年4月にオープンしました。地元で作られた野菜・果物・お米の直売店や、それらの食材を使った料理を提供する飲食店を運営しています。
しかし、物を売るだけでは農産物のよさや、その裏で頑張っている農家のみなさんのことを伝えることが難しいと感じたんです。
そこで、農業体験やワークショップなどを企画・運営して、地域の子どもたちに真庭市のよさを伝えていく活動をおこなうことで、農業について詳しく知ってもらおうと設立したのが、NPO法人「真庭あぐりガーデンプロジェクト」です。
子どもたちが主体となっておこなうプログラム
―子育て支援事業でおこなっている「てもて村プロジェクト」について詳しく教えてください。
藤原:真庭あぐりガーデンの周辺に、農家の方が子どもたちのために貸してくださっている畑や田んぼがあります。この畑一帯を私たちは「てもて村」と呼んでいます。
借りている畑や田んぼを使用して、子どもたちに年間を通して農業体験をおこなってもらい、生きるために必要な力を身につけてもらうための活動を「てもて村プロジェクト」と呼んでいます。
たとえば、農業をしていると作業中に農機具が壊れてしまったり、刃物が切れなくなったりすることがあります。そんなときに必要になるのが、道具を直したり刃物を研いだりする力です。
また、収穫した農作物を食べるためには、火を起こしたり道具を使ったりして料理をする必要がありますよね。
「てもて村プロジェクト」では、ただ農作物を育てて食べるだけではなく、農業体験を通じて子どもたちが農村で生きるために必要な知識や技術を学べるプログラムを提供しています。そのプログラムのひとつが、「食と農のプログラム」というイベントです。
運営上の都合ですが、「てもて村プロジェクト」は年間通して同じ子どもたちが集まって活動するため、あらかじめてもて村の村民になっている子どもたちしか参加ができません。
一方、「食と農のプログラム」は一般公募した子どもたちの参加が可能です。「てもて村プロジェクト」の子どもたちが管理する農作地で収穫した食材を使い、味噌やたくあん、こんにゃくなどを作るワークショップをおこなっています。
「食と農のプログラム」では、普段「てもて村プロジェクト」で活動している子どもたちが一般公募の子どもたちをもてなす側となり、自分が今までに身につけた知識を教えながら活動するので、お互いに成長することができる仕組みなんです。
さらに、体験活動は地域コミュニティの形成にもつながっています。
てもて村には、“子どもたちが育つ環境をみんなで作りたい”という想いがあり、プロジェクトには保護者も参加しています。一緒に活動していくなかで、保護者同士も仲良くなっていくんです。もともと関わりのなかった人同士が仲良くなって、お互いの子どもを一緒に見守る。そんな繋がりが形成されていますね。
年間を通してさまざまなイベントを実施
―団体が実施しているイベントについて、詳しく教えてください。
藤原:年に2回開催している体験型イベント「カラダンジョン」は、子どもたちが身体の迷宮に入り、身体が元気になる秘訣を探るという内容のイベントです。
このイベントの珍しいところは、運営を10歳以上の子どもたちがしているという点です。“10歳を過ぎたら一人前”という農家さんの昔からの教えがあるのですが、それに基づいて小学4年生からボランティアスタッフに参加することができます。
たとえば、「おなかを冷やしてはいけない」ということを、同じ年代の子どもに分かりやすく伝えるためのパネルづくりや、当日の誘導スタッフなども子どもたちにお任せしていますね。
また、毎年12月に、子どもたちに地球について考えてもらう「真庭SDGsデー」というイベントを開催しています。実は、真庭市はSDGs未来都市の第1号として選ばれた町なんです。
「真庭SDGsデー」のイベントでは、スタンプラリーやマルシェなど、子ども向けの催しをたくさん用意しています。
―今後開催予定のイベントなどはありますか?
藤原:まず「真庭SDGsデー」を、12月4日に開催します。
2022年以降は、「てもて村プロジェクト」を1月22日・29日、2月19日・26日、3月19日・26日に実施予定です。
また、「食と農のプログラム」は1月8日に「こんにゃくづくり」、2月5日に「味噌づくり」、3月5日に「おはぎづくり」を予定しています。
そのほかにも、3月5日には、参加者100人規模の真庭版「逃走中」イベントをおこないます。「てもて村プロジェクト」に参加している子どものお父さんや地元の大学生たちがハンター役や撮影係を担当してくださり、とても楽しいイベントになる予定です。
全ての子どもたちに私たちの想いを伝えたい
―今後の展望について教えてください。
藤原: 私たちがこの活動を始めたきっかけには、体験イベントなどを通して、子どもたちや保護者に「食べ物がみんなの身体や心を作っている」ということを少しでも知ってもらいたいという想いがありました。
イベントの告知をすると、私たちの活動に興味のある子どもや保護者の方が参加してくれていますが、イベントに来てくださるのは、ある程度意識の高いご家庭の方です。
そのため、「イベントに来られない方に食の大切さなどをどうやって伝えていくか」が今後の課題となるでしょう。
たとえば、私たちは農業バイオマスの取り組みも発信しているのですが、生ごみや動物の糞尿をバイオマス資源として農地に還元することで、栄養たっぷりでおいしい農作物を作ることができます。そこで、真庭市の野菜がおいしいということを子どもたちに知ってもらう必要があります。
私たちはプロジェクトやイベントを通して、子どもたちに農作物を作る苦労を体験してもらったり、おいしい野菜を食べてもらったりする取り組みをしながら、地元の農家の方々を応援する活動をしています。
しかし、団体のイベントのなかだけでは限られた子どもたちにしか伝えることができないため、今後は公共の教育に取り入れてもらいたいと考えています。
そして、ゆくゆくは真庭市で採れた農作物を学校給食に取り入れてもらい、全ての子どもたちに真庭市で採れたおいしい農作物が行き届くことを願っています。
また、ご家庭の事情でイベントなどに参加できない子どもたちにもたくさんの経験をさせてあげたいという想いから、クラウドファンディングで資金を集めて、移動型ワークショップ車「てもて号」を作りました。
「てもて号」では、薪割り・火起こし体験、廃材アート、ドラム缶風呂体験など、てもて村で実施している「ものづくり体験」をベースにしたワークショップを開催しています。まだ始動したばかりのプロジェクトですが、これからも「てもて号」にいろいろな道具を乗せて子どもたちのもとへ行き、体験活動を提供する機会を与えていけたらいいなと思います。
―最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
藤原:子どもたちは一人ひとり個性があり、すばらしい宝をもって生まれた神様の最高傑作です。その存在の価値は、隣に人がいたり、その子どもを包む環境があったりするなかで、初めて実感することができます。
私たちは、親が自分の子どもだけを育てるのではなく、昔の日本のように「地域の子どもをみんなで育てる」という環境が構築できたらいいなと思っています。
ぜひ、皆さんも地域でともに生きる一員として、私たちのプロジェクトやイベントなどに遊びに来てください。
―本日は貴重なお話をありがとうございました。
■ 取材協力:NPO法人 真庭あぐりガーデンプロジェクト