日本では一般的なことでも、世界では当たり前ではないことが多くあります。
子どもが怪我をしたときや、体調が悪いときに病院へ連れていけない。貧しいことで、栄養のある食事もできない、そんな国があることをご存じでしょうか。
今回は、健康に格差のない社会を目指して活動する、NPO法人「HANDS」代表理事の横田 雅史さんにお話を伺いました。
ただ支援をするだけでなく、保健医療の仕組みづくりからサポートする取り組み。
国際協力に興味のある方、深刻な世界情勢に対する活動を知りたい方は、ぜひご一読ください。
開発途上国を支援するNPO法人「HANDS」とは
ー本日はよろしくお願いします。まず、NPO法人「HANDS」の設立経緯と、活動内容について教えてください。
横田 雅史さん(以下、横田):私たちは、開発途上国で“保健医療の仕組みづくり”と“人づくり”を通じて、世界の人々が自らの健康を守ることができる社会を目指し活動しています。
国際協力に関わる医師などが中心になって立ち上げました。
アメリカのボストンには、Management Sciences for Health(MSH)という、保健医療の仕組みづくりと人づくりに取り組む巨大なNGOがあるのですが、日本にも同じようなNGOをつくりたいと思ったのがきっかけです。
団体名の「HANDS」は、手を取り合うという意味も込めていて、英語の「Health and Development Service=健康と開発」を略して名付けました。
私たちの目標は、“世界の人々が自らの健康を守ることができる社会”を実現すること。
たとえば、いくら日本人スタッフが現地で活動しても、いつかはいなくなりますよね。だから、私たちがいなくなっても、現地の保健医療が保たれるようにするのが私たちの役目だと思っています。
世界には、病気になっても医療機関がなくて治療を受けられない人や、医療従事者の介助なしに自宅で出産する妊婦が大勢いて、残念ながら多くの命が失われている状況です。
そこで、病気になる人が少なくなるように、また産前健診などにより、少しでも出産時のリスクを減らせるような活動をおこなっています。
加えて、開発途上国の母と子の健康を守る母子保健を進めるうえで、日本生まれの「母子手帳」が非常に有効だと考えています。
母子手帳は、母体と胎児の妊娠初期から出産、産後、さらに乳幼児、就学前までの健康状態を記録することで、経過が順調かを把握できるなどのメリットがあり、私たちも母子手帳を世界へ広める活動をお手伝いしているのです。
各国で“健康問題”と“育児や母子のケア”をサポート
ー「保健医療の仕組みづくり」と「人づくり」の活動について詳しくお聞かせください。
横田:これまでにアジア、アフリカ、中南米の10か国以上で活動してきましたが、現在はケニア、パプアニューギニア、シエラレオネの3か国で活動をおこなっています。
どの国の活動場所も首都から遠く離れていて、道路は未舗装、さらに電力も満足に通らない大変厳しい地域が多く、そのような場所では医療行為を気軽に受けられる施設は非常に少ないです。
そのような状況なので、現在活動しているケニアとパプアニューギニアでは、自分たちの地域の人びとの健康を守る保健ボランティアを育成するために、研修を実施しています。
医療従事者が十分にいないため、代わりに現地の人に知識を得てもらい、地域の人の健康を守ってもらうのです。
開発途上国の一部では、日本と比べ、乳幼児と妊産婦の死亡率は非常に高く、深刻な問題です。日本では当たり前の乳幼児の健康診断や、妊婦検診が十分におこなわれていない地域も多くあります。
したがって、そこで知識を得た保健ボランティアが、医療従事者と一緒に健康診断や検診をおこない、幼児や妊婦の健康状態を把握することで、早期に異常を発見できると思っています。
そして必要に応じて現地の行政、医療機関と連携してケアにあたることも可能です。
また、子どもの健康を守る重要な活動のひとつとして、子どものための栄養改善活動もおこなっています。
ケニアとシエラレオネでは、保健ボランティアや現地NGOスタッフが、幼稚園や小学校の教員、保護者などと協力して、園庭や校庭に菜園をつくり、育てやすく栄養価が高い野菜を中心に栽培しているのですよ。
収穫した野菜を給食にいれることで栄養の改善を図り、また菜園づくりを各家庭にも普及できるよう努めています。
ーほかにおこなっている、日本国内での活動についても教えてください。
横田:以前から母子手帳に関する活動は国内でもおこなっていたのですが、最近、母子手帳と一緒に使う「リトルベビーハンドブック」を広める活動を始めました。
一般的な母子手帳は、基本的には平均的な赤ちゃんを対象につくられています。
たとえば、発育曲線グラフは体重が1kg、身長は40cmからしかメモリがありません。
ところが、医療の進歩により、1kg以下で生まれる新生児が年間で約2600人もいます。そうすると、我が子の成長を記録したくても、メモリがなくて悲しい想いをする保護者がそれだけ多くいることになるんですね。
そこで静岡県が、小さく生まれた赤ちゃんのご家族からの要望を受けて、日本で最初にメモリが0からあるリトルベビーハンドブックを作成しました。
ハンドブックのなかには、似た境遇のご家族からのコメントや連絡先など、母子手帳には書かれていない情報がたくさん入っています。
とはいうものの、ほかの県や、自治体にも少しずつ広がっていますが、まだ知名度が低いのが現状です。
当団体は、リトルベビーハンドブックを広め、小さな赤ちゃんをもつ保護者が情報交換できるサークル活動を応援しようと取り組んでいます。
国際協力にインターンとして参加!途上国の現状を知る
ー国際協力に興味がある人が参加できるイベントや、活動はありますか?
横田:私たちの活動は、基本的には海外でおこなっています。
そのため、気軽に一緒に現地で活動することは難しいのですが、今までにインターンとして多くの方に参加していただきました。
たとえば、ケニアには日本人スタッフが数人常駐しているので、現地でのサポートはできるのですが、安全管理はご自身でおこなっていただく必要があります。
日本に比べると厳しい環境ですが、それでも私たちの活動に興味があって、海外で活動がしたいという方は、意向をお聞きしながら参加していただいています。
あと日本国内のイベントは、新型コロナの影響で開催できていない状況です。
しかし、海外での取り組みを広報として手伝っていただける方がいれば、ぜひお願いしたいので、ご興味のある方はご連絡をお待ちしています。
すべての人が“健康で幸せに暮らすことができる社会”を目指して
ー今後の展望をお聞かせください。
横田:今までと変わらず、開発途上国で特に弱い立場の子どもと女性が、少しでも健康に暮らしていけるように活動していきたいと思っています。
たとえばパプアニューギニアでは、驚くほど女性の地位が低く、そのことが女性の健康にも深く関わっているんですね。
そこで、女性の地位を少しでも向上できるよう、保健ボランティアを選ぶとき、各コミュニティから、男女同じ人数を選んでもらっています。
そうすることで、少しでも女性が社会で活躍する場を提供したいと思っているのです。
このように、“弱い立場の人が健康に暮らしていくにはどのようなことが重要なのか”を考えながら、今後も活動を続けていきたいと思っています。
私たちができることには限りがありますが、今後も支援の手が届きにくいところに向けて、活動を続けていきたいです。
ー最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
横田:世界にはいろいろな国があります。さらに、異なる文化があって、さまざまな人がいます。
まずは、私たちがどういった活動をしているのか、興味をもっていただけると嬉しいです。
関心を持つことで、学ぶことや、新しい発見もあるでしょう。
ぜひ、私たちの実際の活動の様子を公式ホームページやFacebookで見て、知ってください。
ー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
■取材協力:NPO法人 HANDS