行きたい場所へ行くこと、好きな友だちと自由に遊ぶことは、誰にでもできることではありません。
なかには、そこに壁を感じ生きづらさを覚える方がいることを、ご存知でしょうか?
今回は、障がいのある方が当たり前に暮らせる社会の実現を目指し、活動を続けるNPO法人「ぱれっと」事務局長の南山 達郎(みなみやま たつろう)さんにお話を伺いました。
詳しい活動内容から柔軟な発想を大切にする理由まで、ぱれっとの魅力をご紹介します。
「ぱれっと」という名前にこめられた意味
ー本日はよろしくお願いします。まずは、NPO法人「ぱれっと」の設立経緯や活動内容を教えてください。
南山 達郎さん(以下、南山):私たちが活動を開始した1983年ころというのは、障害がある人たちが普通に外出することが難しく、家の中にいる人が多かったんです。
そこで、障がいのある人が、当たり前に集まれる拠点をつくりたいと「ぱれっと」を設立しました。
絵を描く道具のパレットでは、いろいろな色が混ざり合って新しい色を作り出しますよね。
色を人に置き換え、さまざまな人たちが出会って、融合することによって新しい可能性を生み出すように「ぱれっと」名付けました。
私たちのミッションは、障がいのある人が直面する生活場面での課題を解決し、全ての人が「当たり前」に暮らせる社会を実現すること。
「当たり前」というのは、住みたい街に住み、やりたい仕事をして、遊びたい仲間と遊ぶ。障がいのない人が、普通だと思うようなことです。
障がいがあることによって、住みたい場所には住めず、施設を勧められる。やりたい仕事があっても受け入れてもらえない。
そうやって、多くの可能性が制限されてしまっているんです。
「当たり前」を実現するには、福祉制度の枠内での活動も重要ですが、その先の活動も大事になります。
たとえば、川を渡ろうとしたときに橋を架けるのが福祉制度だとすれば、橋を渡った先に豊かな人間関係を広げていくことが枠外での活動です。
私たちは設立以来、福祉制度の枠にとらわれない活動を続けています。
「働く」「遊ぶ」「暮らす」を支える
ーぱれっとの活動について詳しく教えてください。
南山:ぱれっとでは「遊ぶ」「働く」「暮らす」という3つの生活場面に応じた活動があります。
「遊ぶ」では、「たまり場ぱれっと」という余暇活動で障がいがある人も、ない人も自由に集まり、楽しい時間を共有しています。
多くの学生、社会人ボランティアが企画してくれていて、ヒップホップダンス教室や劇団といったクラブ活動もあるんですよ。
「働く」では、働く場所が欲しいというニーズに応えて「おかし屋ぱれっと」という作業所を開き、クッキーやパウンドケーキの製造とイートインの運営をおこなっています。
また、「工房ぱれっと」ではオリジナルのぬいぐるみの生産もおこなっていますよ。
「おかし屋ぱれっと」と「工房ぱれっと」の売り上げは障がいがある人への給料になる仕組みになっていますね。
「暮らす」では、「えびす・ぱれっとホーム」というグループホームで、障がいのある人たちが、スタッフのケアを受けながら共同生活を送っています。
スタッフが食事や金銭管理のサポートはしますが、利用者の方が自分でできることはやってもらうのを大事にしていますね。
そのほか、福祉制度の枠外のユニークな取り組みとして、障がいがある人もない人も安全に暮らせるシェアハウス「ぱれっとの家 いこっと」を運営。
こちらは、障がいのない方が、ある方を世話する立場ではなく、ともに見守り、困ったときに支え合いながら共に暮らすというコンセプトです。
他者への配慮が学べる
ー活動に参加することで子どもたちが学べることを教えてください。
南山:基本的には社会人が中心ですが、子どもが参加できるのは「たまり場ぱれっと」ですね。
小学生や中学生が参加するときには、保護者にも参加してもらえるようにお願いしています。
大人でも、障がいがある人の団体でボランティアをするというと、「何かお手伝いをしなくちゃいけない」と思うんですね。
そうではなくて、活動を通じて、障がいのある人たちが何かをしてあげる対象でもなければ、気負っていくところでもないと知って欲しい。
同じ人として、普通に仲間としてつきあって欲しいとお伝えしています。
それは、一緒に美術館へいったり、散歩をしたりすることで、障がいがある人がそんなに特別なものではないと分かっていただけるはずです。
障がいがあっても、なくても同じ人なんだと体感してもらえると思います。
このように「たまり場ぱれっと」の活動を通じて、同じ人としての付き合い方を学ぶことができます。
イベントはボランティアが、さまざまなシチュエーションを想定して企画するので、他者への配慮も学べるでしょう。
枠にとらわれない柔軟な発想を大事に
ーNPO法人「ぱれっと」の今後の展望について教えてください。
南山:福祉制度の多くは行政が法律という枠をつくります。ところが、一般社会の人は、法律で保障された枠のなかだけで生きていませんよね。
障がいのある人だけが、福祉の枠のなかだけで生活するというのは、違います。
だから、何か要望があったときに、これは福祉制度の枠にないからできませんというのではなく、常に柔軟な発想での対応を心がけています。
それから私たちが大事にしていきたいのが、「たて・よこ・ななめ」の関係です。
たては都など行政との関係。よこは同じ障がい団体とのつながり。ななめは同じ地域にある異なる分野のNPOや個人とのつながり。
これらの関係を広げていくことで、問題を抱える団体があっても孤立することなく、サポートしあっていけるはずです。
ー最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
南山:「たまり場ぱれっと」ではいろいろな切り口のイベントを企画しています。
たとえば、美術の先生が企画した美術館へいってレクチャーを受ける「芸術の秋コース」。
「スポーツの秋コース」では、オリンピックの名残を見に国立競技場まで散歩をします。
「近隣の大学へいこう」では、大学のキャンパスで大学生気分を味わうことができます。
これらのイベントは誰でも参加可能です。事前にオンラインでしっかりレクチャーもおこないます。
少しでも私たちの活動に興味を持ってくださった方は、どうぞ参加してください。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:ぱれっと