すべての子どもたちは等しく大きな可能性を持っていますが、住んでいる場所や家庭環境よって、子どもの成長過程で触れることができる芸術的体験に差が出てしまうことがあります。
鹿児島県で活動する特定非営利活動法人 かごしま子ども芸術センターは、クラウドファンディングを活用して無料で舞台鑑賞や芸術体験の機会などを、できるだけ多くの子どもたちに提供するための活動をしている団体です。
今回は特定非営利活動法人 かごしま子ども芸術センターの事務局長である入本 敏也(いりもと としや)さんに、活動内容やクラウドファンディングについてお話を伺いました。
子どもの可能性をできるだけ広げてあげたいと考えている保護者の方は、ぜひご覧ください。
子どもたちに舞台鑑賞や芸術体験の機会を提供
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本日はよろしくお願いします。まずは特定非営利活動法人 かごしま子ども芸術センターの概要について教えてください。
入本 敏也さん(以下、入本):私たちは、もともと別の会員制の任意団体で活動していました。そこでは会員の子どもたちと一緒に演劇や音楽などの舞台鑑賞、キャンプなどの野外活動をおこない、子どもたちに感動体験を与えることで健全な育成をすることが目的でした。
しかし、家庭のさまざまな事情で入会できない子どもたちもいました。
そこで、「県内すべての子どもたちに、さまざまな体験機会を与えたい」という思いを持っていたメンバーが、別の組織として設立したのが特定非営利活動法人 かごしま子ども芸術センターなんです。
私たち特定非営利活動法人 かごしま子ども芸術センターの具体的な活動内容は、舞台鑑賞などをおこなうだけではなく、実際に子どもたちに「体験してもらう」ことを目的とした芸術体験の機会を提供しています。
すべての子どもたちが無料で体験できる
ーかごしま子ども芸術センターでおこなっている主な事業について教えてください。
入本:私たちの事業で最も大事にしているのは、子どもたちに差をつくらず、誰もが無料で体験できることを目指しているという点です。子どもを参加費で選ばない。
たとえば、入場券を買わないと観られない公演だと、その券を買える家庭の子どもだけがその舞台を観られるということになってしまいますが、もし学校でやるのであれば“その学校に通っている子どもたちが全員同じ体験をできる”ということが重要です。
子どもは「どこにどんな可能性を持っているのか」本人でもわからないです。さまざまな体験を通して、どのようなことが成長のきっかけに繋がるのか、体験してみるまではわかりません。
私たちは、さまざまな体験をおこなうことは、子どもたちが変化・成長していくチャンスを増やすことにつながると考えています。
そのため、文化庁の「文化芸術による子供育成総合事業」を受託するなどしながら、学校のなかで子どもたちの体験活動を広げていく「舞台芸術普及事業」を主にした活動としています。
また、「体験する」という意味では「芸術体験授業」という活動もおこなっていますね。今年は「夏休み・子ども芸術体験プロジェクト」として、県内の25ヶ所で演劇やバルーンアート、パントマイムなどの体験ができるワークショップを開催しました。
演劇であればプロの講師と一緒にお芝居をつくる体験をしたり、パントマイムであればプロの人からパントマイムのやり方を教えてもらったりしています。もちろん、子どもたちの参加費は無料です。
小規模小学校の子どもたちにクラウドファンディングを実施
ー今後、開催予定のイベントなどがあれば教えてください。
入本:これは文化庁主催の有料公演になってしまうのですが、12月23日に霧島市の溝辺公民館(みそめ館)、および12月25日に鹿屋市の文化会館で、劇団かかし座による「オズの魔法使い with オーケストラ」という公演を実施します。
また、大人向けのイベントとして、2月11日~13日に鹿児島出身の松元ヒロさんによるスタンダップコメディの公演も予定しています。子どもたちに多くの体験をさせるためには、子どもを後押ししてくれる大人の理解が大事だと思っており、大人向けのイベントも年に1回おこなっていますね。
さらに、11月15日からは子どもたちに芸術体験を届けるためのクラウドファンディングを開始します。昨年もこのクラウドファンディングをおこなっているのですが、子どもたちに芸術体験をしてもらおうと思ったときに一番困るのは、やはり財源なんです。
鹿児島県には今年度497校の小学校があるのですが、そのうちの216校が全校児童50名以下の小さな学校です。たとえば児童が1,000人いる学校であれば、ひとりあたり800円集めたら80万円集まり、さまざまな公演をおこなうことができます。しかし、50人の学校の場合は800円ずつ集めても4万円にしかなりません。
さらに離島だと、車を1台渡すだけでフェリー代が往復10万円以上もかかります。
私たちは鹿児島県のどこにいても子どもたちにできるだけ同じような体験をしてもらいたいと考えています。そのため、たとえ小規模な学校や離島であっても、子どもたちに同じ芸術体験をプレゼントするというのがクラウドファンディングのコンセプトなんです。
昨年のクラウドファンディングでご支援いただいた資金で今年は20校の小学校と、1校のフリースクールを対象に実施中です。
もし小規模小学校の子どもたちに貴重な体験をプレゼントしてあげたいと思っていただけたら、クラウドファンディングに協力してもらえると嬉しいですね。
自分の心が動くことをたくさんやってほしい
ー今度の展望について教えてください。
入本:どこに住んでいても、どのような家庭だとしても、同じような芸術体験の機会がある環境に少しでも近づけたいです。
鹿児島県では小学校の小規模化が進んでおり、497の小学校のうち、100名以上の子どもがいるのは半分以下の200校しかありません。
子どもたちは自分自身で住む場所を選べるわけではないので、たとえ年に1回だけでも等しく芸術体験の機会を設けてあげたいです。
また、活動を通じて子どもたちに、“自分には可能性がいっぱいある”ということを知ってもらいたいですね。学校教育では勉強が第一になっており、確かにそれは大事なのですが、それ以外の価値観もたくさんあるはずです。
子ども時代にさまざまな体験をして、たくさんの可能性があるということを感じてもらいたいですね。
ー最後に、読者へメッセージをお願いします。
入本:価値観は人それぞれであり、決してひとつではありません。子どもたちには自分の心が動くことをたくさん体験してほしいと思います。
私たちがよく一緒に仕事をしている30代前半の若いプロパフォーマーがいるのですが、彼は学校でいじめにあっていた経験から中学校と高校にはほとんど通っていません。
しかし、自分でさまざまな体験のなかからパフォーマーという道に進み、やりたいと思ったことをまっすぐ突き詰めていって、現在はプロとして活躍しています。もちろんとても大変な道のりだったと思いますが、パフォーマー1本だけで生活ができているのは、鹿児島県で唯一彼だけなのです。
やりたいことを諦めずにやっていくのは本当に大事だと思います。そして、保護者の方々にはそんな子どもたちを応援してくれたら嬉しいですね。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■ 取材協力:特定非営利活動法人 かごしま子ども芸術センター