最近よく耳にするLGBT(性的少数者)という言葉、身近に感じるという方はまだまだ少ないのではないでしょうか。
一方で、性的少数者に対する偏見や差別的な発言は、日常生活の何気ない会話のなかにも登場しているかもしれません。
こうした社会を変える第一歩は、まずは「知る」ことです。そして習慣や常識を変えていくことにあります。
沖縄県にあるNPO法人「レインボーハートokinawa」は小学校から高校、そして特別支援学校と、学校現場でのLGBT啓発活動に取り組んでいます。
今回は、NPO法人「レインボーハートokinawa」の竹内清文(たけうち きよふみ)さんに、活動内容や今後の展望などについてお話を伺いました。
子どもの自己肯定感や多様性尊重の心を育む取り組み
ー本日はよろしくお願いします。まずは、NPO法人「レインボーハートokinawa」について、設立経緯や活動内容についてお聞かせください。
竹内清文さん(以下、竹内):設立のきっかけは2016年に、知り合いの養護教諭の方から「LGBTの講演を高校でやってもらえないか」というお話をいただいたことでした。依頼を受けた当時は、NPOや団体ではなく、私がただ“当事者として講演をする”というものでした。
その後、先生方の口コミで講演の機会が増え、講演を依頼してくださっていた養護教諭の先生方が中心となって、2017年の4月に「レインボーハートプロジェクトokinawa」という任意団体を立ち上げたんです。
そして、令和3年2月にNPO法人格を取得したことで、NPO法人「レインボーハートokinawa」と名称を変更しました。
NPO法人「レインボーハートokinawa」の活動目的は、「LGBT」「性の多様性」の啓発をおこなうことにあります。
特に子どもたちを対象として、自己肯定感や自分らしさ、多様な人を大切にする心などを育む取り組みをしています。
具体的には、学校現場で子どもたちに向けて講演会をすることが活動の中心ですね。
LGBTや性の多様性について正しい知識を教える
ーNPO法人「レインボーハートokinawa」がおこなっている講演会について、詳しく教えてください。
竹内:活動では、「LGBT」「性の多様性」について子どもたちに正しい知識をもってもらうことを目的とした講演会を実施しています。講演は小学生・中学生・高校生・特別支援学校の児童生徒が対象です。
講演をおこなう地域は沖縄県内の学校が中心ですが、北海道や岡山の学校からも依頼があり、現在では全国で延べ271校をまわらせてもらっています。
また、子どもたちに伝えるということだけではなく、学校の現場で働くの先生方にも知っていただくことが大事だと思っているので、先生方の研修会などでも講演会を数多くおこなっています。
そのほかにも、企業や大学、自治体の職員研修などの場でお話をすることもありますね。
ー子どもたちに正しい知識をもってもらうことが大切なのですね。
竹内:そうですね。子どもたちにきちんと正しい知識を伝えていくということは、命を守ることだと思っています。
さまざまな機関がアンケート調査などをおこなっていますが、LGBT当事者の半分以上が「命を断とうと思った経験がある」と回答しており、LGBT当事者の6割が「いじめ被害」を経験していたり、高校生に対する調査では当事者3割が「自傷行為を経験している」などの統計データ(※)が出ています。
こういう事実やデータは、なかなか社会に認識されていません。テレビで見るオネエタレントさんの明るいイメージが強いからか、“LGBTの人=すべてオネエタレントさんのような明るい感じ”と思われてしまっている部分もあり。
しかし、調査をすれば、命の危機にある人が多くいるということがわかります。内閣府の「自殺総合対策大綱」にもはっきりLGBTは「自殺念慮の割合等が高いことが指摘されている」と書いてあるんです。
それはやはり、まわりの偏見や無理解から追い込まれている状況があるんじゃないかと思うんですよね。
そう考えると、尚更、子どもたちにLGBTの知識を伝えることは“命を守ること”に繋がるのだと思います。だからこそ、私たちの活動は、「命を守りたい」という思いが原点にありますね。
(※)統計データについて
■当事者の自殺念慮経験65.8%
出典:埼玉県「多様性を尊重する共生社会づくりに関する調査」(令和3年2月、性的少数者184人中)
■LGBTの約6割がいじめにあっている
出典:宝塚大学看護学部日高研究室(2017):「LGBT当事者の意識調査「REACH Online 2016 for Sexual Minorities」
■LGBT・性的少数者の高校生3割が自傷行為(平成29年10月~12月、約1万人中)
出典:三重県立高校2年生約1万人対象調査、三重県男女共同参画センターと宝塚大学日高庸晴教授共同実施
悩んでいる子どもを救うためのカウンセリング
ー「レインボーハートカウンセリング」は、どのようなことをおこなっているのでしょうか?
竹内:「レインボーハートカウンセリング」は、1回45分の有料カウンセリングです。カウンセリングを事業として立ち上げたのはNPO法人化してからなので、まだ始めたばかりの事業です。
それまでは団体で明確なカウンセリング事業はうたっていなかったのですが、学校で講演会をおこなうたびに、子どもたちから悩みや相談がとても多く届くんです。
やはり言いづらいことだったり、周りに知られたくないことなど、一人ひとりにいろいろな悩みがあるので、1対1で相談を受けることはとても大切なことだと思い、カウンセリング事業をはじめました。
有料カウンセリングの実例はまだあまりないのですが、TwitterやInstagramなどのSNSを通して子どもたちからの悩み相談はくるので、それに対応するようにしています。もちろん、講演を聞いてくれた生徒や先生からの悩みには無料で対応しています。
ーカウンセリングをおこなうことで、子どもに変化はあるのでしょうか?
LGBTという言葉は注目されていますが、LGBTについて相談できる場所は少ないと思うんですよね。友だちや家族にも簡単には言いづらいことかもしれないですし。
子どもの場合、「学校や家族がすべて」と思っている部分があり、友だちに拒否されたら全部終わりといったように、とても狭い世界で考えているんです。
だからこそ、私のような外の存在の人や、「話を聞いてもらえる場所」「否定されない場所」が、子どもたちに必要なのではないかと思います。
私が子どものころは、相談できる人もいなくてとても辛かったので、いまの子どもたちには辛い思いは味わせたくないです。
「大丈夫かな」「自分はおかしいのかな」と悩んでいた子どもが、ちょっとでも「自分は大丈夫」とて思ってくれたら、それだけで私はカウンセリングに意義があると思っています。
ー団体がおこなっている「指導案づくり」について教えてください。
竹内:LGBTは、いつかは注目されなくなってしまうと思います。メディアや人々がずっと関心を持ち続けてくれることはないですし、学校現場がずっと私を呼び続けてくれるとも限りません。
だからこそやはり、学校で“先生たちが普段の授業で教える”ということを定着させていかなければならないです。
それを定着させていくために、私たちは小学校から高校まで「各学年の発達段階に合わせてどういう授業をおこなうか」という指導案を学校の先生たちと作っています。
たとえば「LGBT」や「性」という言葉がわからない小学1年生にとって、深い学びに繋がる授業を作りあげるのは難しいことです。でも指導案づくりを学校の先生たちと一緒におこなっていると、先生たちはもともと45分間の授業を組み立てる技術や経験をお持ちなので、とても分かりやすい指導案が出来上がります。
やはり先生たちは教育のプロだなと感じています。
また、私が知る限り、LGBT啓発活動において「授業を作って定着化をはかる」事業はあまりされていません。だからこそ、私たちの活動でオリジナル授業の定着化を図ることに意味があります。
これは、私たちの団体がいま一番注力していることですね。
寄付やグッズ販売などさまざまな支援方法を用意
ーNPO法人「レインボーハートokinawa」では、販売しているグッズなどが支援金になっているのでしょうか?
竹内:私たちの団体では、「レインボーグッズ」と呼ばれるオリジナルグッズを販売しています。
「レインボーグッズ」は全部、養護教諭の方々によるアイデアなのですが、グッズを購入していただけると講演を続ける資金になるので大変ありがたいです。
LGBTの活動には、企業や国会議員に働きかけるなど、さまざまな活動方法がありますが、私たちは学校が活動の現場だと思っています。
沖縄県の場合、学校での講演会には1時間4000円という謝金規定があるので、その金額内でどう講演を続けていくかを考えていかなければならず、講演を存続するためにもいろいろな方法で支援を呼びかけています。
NPO法人「レインボーハートokinawa」の支援方法には、賛助会員、ご寄付受付、啓発パンフレットやグッズ販売などありますので、LGBTの正しい知識を子どもたちに伝える講演会を応援したいという方がいらっしゃれば、ぜひ応援していただきたいです。
理解することで救われる命がある
ー今後の展望についてお聞かせください。
竹内:今後の展望については、短期的な展望と長期的な展望の両方があります。
短期的な展望は、「制服選択制」を中学校や高校にもっと広げたいですね。
女の子が「ズボンをはきたい」、男の子が「スカートをはきたい」という学校の制服に関する悩み相談がとても多いです。深刻な場合は、制服が原因で不登校になっているケースがあるほどです。不登校になることで、学校でさまざまな人と関わる経験を失ってしまうのは、社会人として心が痛みます。
だからこそ、「制服選択制」が全校に広がるように、先生や研修会、教育委員会などに伝える活動をこれからもおこなっていきたいですね。
また、授業づくりについても、学校単位の取り組みではなく、行政区単位での授業の取り組みができるような働きかけをしていきたいと思っています。
長期的な展望では、社会環境の整備をおこなっていきたいと思っています。
私が学校で講演をしている子どもたちは、いつか自立した大人になり社会に出ていきます。社会に出ればさまざまな人と出会い、自分の強みで仕事をしかなければなりません。
そう考えると、自己肯定感や多様な人を大切にする考え方は、とても大事になります。
私たちは「LGBT」や「性の多様性」について教えていますが、考えているのは「いつか子どもたちが自立して社会の担い手になるために、何ができるのか」ということなんですよね。
ー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
竹内:日本では、「LGBT当事者が自殺を考えている」「当事者の高校生の約3人にひとりが自傷行為をしている」など、深刻な調査結果が出ているのが現状です。
その背景には、“周囲の理解が足りていない”という大きな要因があります。
私たちは、関心をもつ人が増えれば、救われる命があると本当に思っています。
今回の記事を読んでくれた人が、「LGBT」や「性の多様性」に少しでも関心をもってくれたらとても嬉しいです。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:NPO法人レインボーハートokinawa