民間の企業でも障害者雇用が増えつつある現代、障害があっても活躍できる場はたくさんあります。
しかし、世の中には“障害者”という理由だけで、能力があるにも関わらず抑圧されてしまう方も多いのが現状。
障害者の方と向き合うとき、能力やできることを勝手に決めつけるのではなく、力を引き出したり、寄り添ったりすることが大切です。
岡山県にある「NPO法人パッション」では、障害者の日中一時支援などをとおして、障害者の方自身が力をつけ、問題解決できるよう支援をおこなっています。
今回は、「NPO法人パッション」代表の福田 睦さんにお話を伺いました。
本当に必要とされるサービスを実現するために
ー本日はよろしくお願いします。まずは「NPO法人パッション」の設立や活動の経緯を教えてください。
福田さん(以下、福田):「NPO法人パッション」は、平成23年4月1日より、岡山県を拠点に障害者の日中一時支援などをおこなっています。
設立する前、働いていて「こういうサービスが必要なんじゃないか」と思うものを施設側に提案したことがあったのですが、理由をつけてやらせてもらえなかったという経験がありまして。
自分たちでリスクを背負ってでも、必要とされているであろうサービスをやってみようという思いから、「NPO法人パッション」を立ち上げました。
それぞれが持つ能力や可能性を伸ばすことが大切
ー「NPO法人パッション」がおこなっている活動や、団体として大切にしていることについて教えてください。
福田:障害者の方の日中の活動場所を確保する「日中一時支援事業」や、就労の機会を提供する「就労継続支援B型事業」を主におこなっています。
活動をするなかで、障害者の方の周りにいる親御さんや支援者が、本人の可能性を決めつけてしまうケースがとても多いと感じています。
周りが「これくらいまでできるだろう」と決めつけるのではなく、もともと本人が持っている能力や成長の可能性、好きなことを開花させるということが大切です。
たとえば、絵を描くことが好きな方だったら、描いてもらった絵画やパッケージのデザインに対価を払う、というように。
好きなことや得意なことを伸ばして、力を発揮できるように支援をしています。
この考え方を「エンパワメント」というのですが、我々はこの考え方を大事に活動しています。
ー「支援」という言葉がありましたが、介護や介助との違いはどのような点でしょうか。
福田:介護や介助は、本人ができないことを直接おこなうことです。
一方で、私たちがおこなっている「支援」というのは、本人ができることは自分でやっていただいて、力をつけてもらうこと。
できないからと勝手に私たちがやってしまうのではなく、段階ごとにレベルアップして、いずれは自分でできるよう一緒に行動します。
ー支援をおこなうなかで、「向き合う」「寄り添う」「共に歩む」という3点を大切にしていると伺いました。それぞれの理由を教えてください。
福田:一人ひとり感情があるわけですから、まずは正面から向き合っていることが相手に伝わらないと、心を開いてもらえないですよね。
ですから、まずは「あなたを全面的に受け入れます」という気持ちで向き合います。
そして、「寄り添う」というのは、相手の真横に並んで、同じ方向を向いている状態。
相手が心を開いてくれたら、向き合っていた状態から、段階を踏んで同じ方向を向き、寄り添って進みたいと思っています。
「寄り添う」と「共に歩む」というのは、境目が少し難しいところなんですが、寄り添うなかで方向性が決まったら、一緒に進んでいこうというのが「共に歩む」ことですね。
例えば、子どもが遊具で遊んでいるとき、「どうやって遊ぶ?」と正面に座って話しかけることが「寄り添う」。
一方で、子どもが遊具で遊びたそうにしているけれど遊べていないとき、自ら遊んで見せて、子どもが不安に感じているところを手伝うことが「共に歩む」ということだと思っています。
私たちは、このように段階ごとにマッチした支援をおこない、最終的には同じ方向を向いて共に歩んでいきたいと考えています。
職員も含めみんなで切磋琢磨しあえる作業所
ー「NPO法人パッション」の活動理念や作業所について教えてください。
福田:私たちは、「目的へのサポート」「可能性へのチャレンジ」「自分たちの居たいと思える場所作り」という理念のもと活動しています。
障害があるからといって可能性がないということは決してなく、障害があっても一人ひとりに可能性というのが必ずあります。
その可能性を見出して、前向きに進んでいけたらいいなと思っています。
そのために、まずは障害者の方が「自分の力が発揮できるものって何だろう」という点を模索する場所として、作業所を用意しました。
作業所は、利用している障害者の方だけが力を発揮できる場ではなく、働いている職員も同じように力を発揮できる場所。
働いている全員が互いに切磋琢磨しあえるところが「NPO法人パッション」の作業所の魅力です。
「ここまでできるようになったからこれでいいや」と満足してしまうのではなく、階段を一歩一歩登るように高みを目指して頑張っていきたいですね。
皆さん、自分の可能性を信じるのはもちろんですが、一緒に活動している仲間の可能性も信じながら、さまざまなことにチャレンジをしています。
「NPO法人パッション」では、
皆さんがやりたいことや、なりたいビジョンを叶えられるように、情熱を持って全力で支援します。
自立していける程度の工賃を支払いたい
ー今後の展望について教えてください。
福田:私たちは法人を立ち上げる際、障害者の就労支援に力を入れてやっていこうと決意して始めました。
「NPO法人パッション」の就労継続支援B型事業所は、
毎日通ってきて決められた時間働くという流れで、一人ひとりの状況に沿った就労の機会を提供しています。
この就労継続支援B型事業所は「ファーストステップ」という名前で、皆さんが前へ進むための第一歩になればいいなという思いから名付けました。
今、就労継続支援B型事業所などで支払われる工賃の全国平均が、月15000円程度なのですが、私たちはこれが少なすぎるのではないかと感じています。
せっかく自立するために働いているのに、頑張って働いても工賃がこれだけではいくらなんでも少なすぎるだろうと。
ただ、作業所でおこなっている作業は、工業製品のバリ取りや下請けの業務などが主で、1個作って何銭というように単価が非常に安いことが問題として挙げられます。
「できるだけ工賃を高く払ってあげたい」という気持ちが、「NPO法人パッション」を立ち上げたことにもつながっていますね。
そこで、私たちは下請けの業務などではなく、自主生産品を作ろうと思い、生のコーヒー豆を仕入れて選別・焙煎をして販売しています。
主な作業は、生の豆を一粒ずつピンセットでよい豆と悪い豆に選り分けて、不良豆や欠点豆を除外。
その後焙煎をして、豆のままや粉状、あるいはドリップパックにして販売しています。
ただ、コーヒーだけではなかなか売り上げが伸びないのが現状でして。
最近ではコーヒーを加えたおからクッキーやせんべい、コーヒーの花の蜂蜜なども仕入れて、マルシェなどで一緒に販売しています。
この取り組みはまだまだ模索段階で、今後はもっと手軽に食べてもらえたり、たくさん買ってもらえたりするような、違う商品も販売していこうと準備をしているところです。
私たちの目標としては、まず工賃を上げること。今は、ひとりあたり3万5,000円の工賃を支払えることを目指しています。
なぜ3万5,000円かというと、障害者の方がもらっている月々の障害年金と3万5,000円を合わせると、10万円程度になりますよね。
月々10万円あれば、一人暮らしをするなど自分で選択をしていけるかなと思っていて。
今は市や県から補助金をいただいて運営をしていますが、施設としてというよりも企業として、まずはひとりあたり3万5,000円の工賃を支払えるようになることが目標です。
資金面や経験など、まだまだ足りない部分はあるのですが、補助金をいただかずに目標を実現できることが一番の理想ですね。
ー最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
私たち「NPO法人パッション」は、障害者の方がもっともっと社会で力を発揮できる場所を作っていきたいと思っています。
それは施設をとおしてという面もありますが、できれば施設ではないところで、障害者の方が活躍できる場所を増やしたいです。
障害者の方は、障害者というだけで働き手から外されてしまうことが多くあります。企業側が、障害者の方にどのように接すればよいのかわからないから、雇えないと言われてしまう。
しかし、重度の障害でなければ、皆さん十分な能力を持っています。
これまで私は、障害者就労をお願いして回る施設側の立場だったのですが、ある日、お願いしてばかりではいけないと気づきました。
そこで、私が実際に障害者の方を雇ってみて、できることや方法を提示できれば、私の言葉にも説得力が増すのかなと現在模索しているところです。
私たちが頑張っている様子が見えたら、ぜひ「頑張っているね」と声をかけてください。これでいいんだなという確認も取れますし、見守っていただけたらうれしいですね。
そして、実はいま新たに、違うことを始めようと動いていますので、応援していただけたら幸いです。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:NPO法人パッション