平成24年に文部科学省から発表されたデータによると、知的発達に問題はないが学習面において支援が必要な子どもの割合は6.5%であるということがわかっています。
近年はあらゆる事由により発達障がいを抱える子どもが年々増えている傾向にあり、その家族は子育ての大変さに加えて、発達障がいについてもケアしなければいけません。
そんな発達障がいを抱える子どもと家族を支援するために活動しているのが、長崎県波佐見町にあるNPO法人「しらかば」です。
NPO法人「しらかば」は、発達障がいの子どもとその家族に対して、保健や教育、福祉や医療などあらゆる方面と連携し、総合的ネットワークを構成した手厚い支援を実施しています。
今回は、NPO法人「しらかば」の副理事である井手 啓介(いで けいすけ)さんと、副理事夫人であり「子ども発達支援室さくらいろ」代表の井手 友美(いでともみ)さんに、団体の活動内容や今後の展望についてお話を伺いました。
児童教育と医療福祉の経験を経て誕生した「NPO法人しらかば」
ー本日はよろしくお願いします。まずは「NPO法人しらかば」の設立経緯について教えてください。
井手さん(以下、井手):NPO法人「しらかば」の立ち上げのきっかけは2つあります。
まず1つめは、理事長である田添 有喜(たぞえ ゆうき)の経歴に関係します。
田添は中学校の教諭・教頭・校長として、長年児童の教育に携わってきました。その後、定年退職を迎えたときに、地域の子どもたちのために自身の経験や知識を活かした支援ができないかと考えたことがきっかけでした。
2つめは、田添の娘が言語聴覚士として長年医療福祉の分野で小児に携わっていたことです。
携わっているなかで病院内だけではなく、地域単位で子どもたちの支援がしたいという思いがあったようで、田添と娘のそれぞれの思いを合わせて設立したのがNPO法人「しらかば」なんです。
さまざまな機関と連携した4つの支援事業
ーNPO法人「しらかば」では、具体的にどのような活動をおこなっているのでしょうか?
井手:私たちの活動は、おもに4つの取り組みがあります。
まずは、児童発達支援と放課後デイサービスをおこなう「子ども発達支援室さくらいろ」です。
「子ども発達支援室さくらいろ」では、言語聴覚士と作業療法士が中心となって療育をおこなっています。療育の際は、保護者に同伴していただいて、一人ひとりの子どもの特性を理解してもらうことや日常での関わり方をお伝えしたりしていますね。
子どもが持っている力を最大限活かせられるように、お手伝いしています。
2つめは、「園・学校支援」の活動です。
これは、主に「子ども発達支援室さくらいろ」をご利用の方で、保護者の方から要望があれば、園や学校との連携をとります。また、行政から依頼があった場合は、巡回相談に参加し、園での関り方や、保護者への促し方について一緒に検討させてもらっています。
3つめの「相談支援」の活動については、福祉や療育の利用を迷っているご家族などに、専門的なアドバイスをおこなっています。
実は、福祉や療育などの専門的な相談をしたい人からすると、悩んでいても相談するには一歩壁があるようで、まずは地域で気軽に相談できる場所として、いつお声がけいただいてもいいように私たちは待機しています。
そして4つめの活動は、「学童保育支援」です。団体には学童保育のコンサル経験がある作業療法士がいて、3回の相談を1クールとして実施しています。
以前は、学童保育の現場を見ながら活動していたのですが、いまは新型コロナウイルスの影響があるので、Zoomなどを使いながら実施しています。
保護者も安心できる環境づくりを心掛ける
ー活動で保護者の方と接する際に、大切にしていることはありますか?
井手(夫人):どのような子どもでも得意・不得意があるわけで、そこに健常者と障がい者等の区別はないと考えています。
大切なことは、その子ども自身をしっかりと見て理解して対応することなので、「いま、こういうことができたらいいですね」という言い方をしています。
「これができないからこの子どもは障がいだ」と言われてしまい、落ち込んで来る保護者の方もいるのですが、私たちは“障がい”という言葉に左右されないように答えていますね。
子育てにおいて悩みや困り事はつき物ですし、そのなかでちょっと関りに工夫が必要なのかな、という認識です。
しっかりと子どものよいところを理解して、「こういうふうに遊んだら親子で楽しめますよ」と実際にやってみたりして、少しずつ子育てに自信を持てるようにアドバイスしていければと思っています。
井手:学童保育は、保護者の方が安心でき、子どもたちが勉強も遊びも楽しく学べる場所になってもらえるよう、その環境づくりをするためのお手伝いをしていますね。
ただ、現状は働いている指導員のなかには、この方法でいいのかなと困っている方も結構いるみたいなんです。
そのため、私たちは子どもたちへの支援だけでなく、指導員の方に対しても、不安の軽減であったり自信をつけてもらうきっかけになれる支援ができるよう心がけていますね。
それが結果的に保護者の方の安心や子どもたちが楽しく学べる場所の提供にも繋がるのかなと思います。
活動を続けることで少しでも多くの人を支援したい
ー今後の展望などがあればお聞かせいただけますでしょうか?
井手(夫人):特に事業を拡大しようという考えはありません。
いまおこなっている活動を少しずつ頑張っていくことで、ひとりでも多くの子どもと家族が楽しく生活できるように支援していきたいです。
理事長の田添は、中学校で子どもたちと関わっていたときに、もっと早くにどうにかしてあげたかったと思うことがあったようです。「もう少し早めに躓いている部分や家庭環境などの問題を解消することができれば、子どもたちの将来はもっと変わっていたのかな」と、よく言っています。
対応は少しでも早いほうが子どもも変わりやすく、保護者の方も安心して子育てができるので、よりよい親子関係を築けると思います。まだまだ地域によっては早めに動くのが難しい地域があったり、子どもが就学してから気付いて動くというような家庭や学校もあったりするので、できるだけ早めに対応という部分を大事にしていきたいと思いますね。
学習も大切ですが、小さいころからの基礎のコミュニケーション能力をしっかり築くことができれば、「自分はこれでいいんだ」という自尊心も高まり、学ぼうとする姿勢が形成されてきます。
私たちが今後も頑張っていくことで、子どもたちの健やかな成長が少しでも増えるように、これからも活動を続けていきたいと思いますね。
ー最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
井手(夫人):ちゃんとしているのに注意されてしまう子どもや、「なぜ周りの友達より自分はきついんだろう」「なぜみんなと同じことができないんだろう」と悩んでしまう子どもは、どんどん自分を責めて萎縮してしまいます。
そのときに、誰かひとりでも理解してくれる人がいて「この子はこういうタイプだから」「こういう特性だから」と気づいてもらうことができれば、悩んでいた子どもも楽しく生活できるのかなと思います。
“障がい”の線引きは、とても難しいです。
ただ、障がいがあろうがなかろうが、どんな子どもでも良いところや苦手なところがあります。それを「障がいだから」と一括りにしないでほしいなと思いますね。
私自身、感覚が過敏なために辛い経験や失敗経験がたくさんあります。しかし、それがあるからこそ、悩んでいる子どもの気持ちをより敏感に感じることができるので、保護者の方に細かにお子さんの様子をお伝えでき、スモールステップでアプローチすることができます。
子どもの行動ひとつひとつが子どもからのSOSの可能性もあるので、そういった子どもたちの気持ちを理解していくことが大切になりますね。
また、発達障がいの子どもだからといって、特別にしないといけないことはないんです。だから、私たちは特別な子育てをアドバイスするつもりはまったくないんです。一人ひとりの子どもたちがどうしたら楽しく過ごすことができるのか、またご家族が安心して生活を送るために何が必要なのか、をより丁寧にみて、より丁寧に関わっていくだけです。
私たちの考えていることや大事にしていることを保護者にも理解してもらい、それで救える方々がいるのであれば、精一杯貢献していきたいと思っています。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:NPO法人しらかば