テレビや新聞でも、SDGs(エスディージーズ)という言葉をよく見聞きするようになった昨今。
“持続可能な開発目標”という意味は知ってはいても、国がやること、あるいは企業が取り組むことと思っている方が多いのではないでしょうか。
しかし、実は私たち一人ひとりができることもたくさんあるのです。
今回は、そんな環境教育の活動を20年以上前から取り組んでいるNPO法人「エコけん」理事長の清水 佳香さんにお話を伺いました。
子どもに環境問題について興味を持ってもらいたいとお考えの保護者の方は、ぜひご一読ください。
NPO法人「エコけん」が考える“SDGsの達成と環境教育”
ー本日はよろしくお願いします。まず初めに、NPO法人「エコけん」の設立経緯や、活動内容について教えてください。
清水 佳香さん(以下、清水):NPO法人「エコけん」は、持続可能な社会のつくり手を育む教育(ESD)と、地域の皆さんに社会参加を促すことを主な活動としています。
ESDとは、Education for Sustainable Developmentの略です。
あまり耳慣れない言葉かもしれませんが、“SDGsを達成するために必要な環境教育”と思っていただけたらいいと思います。
私たちの活動は、今から約20年前、増え続ける家庭ごみについて考えることから始まりました。
私たちの住む福岡県古賀市は、福岡市と北九州市のふたつの大きな都市の間にあります。
利便性の高い立地であることから、高度成長期に大規模な新興住宅地が開発され、多くの若い世代が移り住みました。
しかし住宅地の急増に伴って、当然、家庭から出るごみもどんどん増えていきますよね。
ごみの焼却で生成されるダイオキシンの排出規制が課されるようになったのは、そのころでした。
ダイオキシンの排出量を減らすため、全国でごみ処理場を建て替える動きが起き、地域でも新しい清掃工場が建てられることになったんですね。
ところが、その移転先は、住宅地からほんの1キロほどのところだったのです。
当時、私の子どもたちはまだ小学生。そんな近くに工場が建つのかと、ひどく驚きました。
でもよくよく考えれば、自分たちがごみを出しているわけです。
新しい工場が稼働するのは3年後でしたが、「ダイオキシンを減らすためにも、なるべくごみの量を減らそう」という声が住民のなかから上がりました。
その流れにのって集まってきた人たちが、現在のエコけんのメンバーです。
当初のメンバーは約20人で、私と同じように子どもを抱えたお母さんたちでした。
家族の安全な暮らし、健康な暮らしを守りたいという思いで、最初にプラスチックごみを減らす活動を始めたんです。
まずは広報紙をつくって地域に呼びかけ、自分たちでプラスチックごみを回収し、再資源化の工場へ持っていきました。
ごみの処理は、行政の方、地域の方、事業者の方たちの協力が不可欠です。
行政による回収が始まる3年間、皆さんの協力や助言をいただきながら、地道に回収活動を続けていきました。
同時に、小学校から要請を受けたり、地元の成人学級に招かれたりして、環境問題について話をする機会も徐々に増えていきましたね。
体験して学ぶ環境学習のエコプログラム
ーNPO法人エコけんがおこなっている事業についてお聞かせください。
清水:古賀市に建てられた清掃工場「エコロの森」には、環境学習施設が併設されており、私たちが運営を担っています。
毎年、エコロの森には、古賀市・福津市・新宮町の小学校に通う4年生の児童が訪れるので、ごみ減量や省エネ、節水、自然環境保全についてお話をしています。
エコロの森では、子ども向けの環境教室や、フリーマーケット、大人対象のエコエコクッキングなどのイベントもおこなっているんですね。
また、3R(スリーアール:リデュース・リユース・リサイクル)を目的とした「かえっこ」というワークショップも、年に何度か開催しています。
子どものものは、おもちゃにしろ服にしろ、使う時期が短いため、きれいな状態のものが多いですよね。
かえっこでは、まだ使えるものを捨てずに必要な人に渡す、リデュース・リユース活動に子ども自身に関わってもらいます。
おもちゃがある子はおもちゃを持ってきて、ポイントに交換。おもちゃを持ってきていない子もそこに準備されたゲームやクイズなどでポイントを集めることができます。そして、ほしいものと交換するんです。
毎回、小さい子どもから小学校の中学年くらいまでの子どもが参加していますよ。
それから、学校からの依頼でおこなっている「しろくま教室」は、もう15年以上続けている活動です。
内容は、先生方と打ち合わせをしながら、環境学習のプログラムを組み立てるオーダーメイド式の講座になっています。
ーしろくま教室では、具体的にどのような環境学習をおこなっているのでしょうか?
清水:ごみを減らすために分別の方法を体験したり、CO2の排出量を少なくするためにはどうしたらいいのかを考え、省エネの方法や技術を体験したりします。
頭で学習するだけでは、省エネは実行できません。習慣にならないと続かないので、子どもたちには、体験を通して伝えることを心がけています。
たとえば節水を教える学習では、サインペンほどの直径の管を用意して、水道の蛇口に取りつけます。
管のなかを通るように水の量を調節したときと、ジャーッと勢いよく出したとき、30秒で水の量がどれだけ違うのか。あらかじめ水の量を計って入れた紙パックを準備しておき、節水の効果を目で見て確認してもらうのです。
また、家庭でも実践できるように、サインペンと同じくらいの直径のコイルを制作して、家に持ち帰ってもらうこともあります。
ある幼稚園では、蛇口にコイル取りつけたことで、年間の水道料金が10万円も安くなったと報告をいただきました。
さらに省エネ学習としては、手回し発電機を自作して、その先に電球とLEDを取りつけ、手にかかる負荷を確認するという体験学習もおこなっています。
イベントを通して届ける「エコ暮らし」のススメ
ー今後、開催を予定しているイベントなどがあれば教えてください。
清水:少し先になりますが、毎年3月にエコロの森で、「春休み教室」と「春まつり」を開催しています。
春休み教室は、廃材工作や、火起こし体験、手づくりロケットづくりなどができる環境教室です。
春まつりには、市民の方がフリーマーケットに出店されるので、親子で楽しんでいただけますよ。
ー今後の展望についてお聞かせください。
清水:現在、未来を担う子どもたちへの贈りものとして、小学校には“しろくま教室”をプレゼントしています。
この教室は、皆さまからの寄付で学校へ出向いてますので、ぜひ環境教育の一端を、私たちに託していただきたいと思っています。
しろくま教室のほかにも、呼んでいただければ「ごみ減講座」や「省エネ講座」など、さまざまな環境学習の講座をおこなうことが可能です。
これからも精力的に学校やサークルに出向き、 日々の暮らしのなかでできる「エコ暮らし」の方法をお伝えしていきたいと思っています。
子どもたちに伝えたい言葉は“未来は変えられる”
ー最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いします。
清水:子どもたちはみんなの宝です。
私たちからそんな子どもたちに伝えたいことは、“未来はつくれる”ということ。
メディアでは、地球温暖化や海洋汚染など、よくないニュースばかりが取り沙汰されがちですが、一人ひとりが諦めないで、環境について考え、実践していくことで、未来は変えていけると思っています。
私たちの活動は、「メルとも」や、LINEでも配信しているので、できるだけたくさんの方に、一人ひとりができる形で参加していただきたいですね。
直接私たちの活動に参加しなくても、各ご家庭で、環境問題について意識していただければ嬉しく思います。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:NPO法人エコけん