テレビやニュースなどで「子どもの貧困問題」について見聞きしたことがある方もいるのではないでしょうか。
親の経済的な理由で十分な生活がおくれずに子どもがいじめにあってしまったり、親の生活習慣が悪いことが子どもに影響を及ぼし、子どもの成長の妨げになってしまったり、自己肯定感が下がりそれが学力に影響が出てしまったりと、さまざまな問題があります。
これらの問題は、子どもが大人になってからも貧困から抜け出せないという負の連鎖を生む可能性があります。
こうした負の連鎖をたちきろうと貧困の子どもたちのために活動しているのが、NPO法人「エンカレッジ」です。
今回は、NPO法人「エンカレッジ」理事長の坂 晴紀(さか はるき)さんに、活動内容や活動への想いなどのお話を詳しく伺いました。
“教育は平等”を信念に学びの場所を提供
ー本日はよろしくお願いします。まずはNPO法人「エンカレッジ」の設立経緯について教えてください。
坂 晴紀さん(以下、坂):私は24年ほど沖縄で学習塾を経営しています。
沖縄の土地を選んだ理由は、沖縄市は家賃が安く、「こどものまち宣言」を出しているだけあって子どもの人口がとても多いので、塾を沖縄市に設立することにしたんです。
ただ、設立してから実感したことは、経済的理由で塾に来られない子どもたちが多いということです。
私たちは“教育は平等”という考えを持って活動しているのですが、すべての子どもたちが教育を平等に受けられない状況を「どうにかしたい」と思い、10年ぐらい悩み続けていました。
そんななか、ある年の高校入試の際に、ひとつの出来事がありました。
経済的な理由で塾に入塾はできないものの、塾の模試に参加してくれて何回か面談をしたことのある子どもがいたのですが、その子どもが高校入試の一時募集で落ちてしまったんです。
私は偶然、合格発表の会場でその親子を見かけて、声をかけて塾にきてもらい今後のことについて面談したところ、お母さんの「自責の念」がとても強かったんですね。
「自分にお金がなく、学がないから、この子は入試に落ちてしまった」と、そう言って自分を責めている状況を目の当たりにしたことがきっかけで、親の経済的理由で子どもが教育を受けられない状況をどうにかしなければいけないと思い、NPO法人「エンカレッジ」を立ち上げ、無料の学習塾を始めました。
また、設立にはもうひとつきっかけがあります。
住んでいる近くの学校の「学力が低い」「いじめなどが多い」といった理由で、越境して別の中学に行かせたり、別の地域に引っ越したりと、「地域のなかで子どもを塾に通わせたい」と考える家庭の割合がどんどん減っているという現象がありました。
実際に、近くの小学校を調べてみると、就学援助児童率は50%ぐらいでした。
地域の永続ということを考えると「これはどうにかしないといけないな」と思い、就学援助が必要な子どもたちにしっかりと教育をしていくことが大切だろうと考えました。
さまざまな課題のある子どもたちをしっかりと教育していくために、その子どもたちを対象とした“学びの場所”が必要であると感じたことが、もうひとつの設立のきっかけですね。
高校受験以降も多くのサポートで支援
ー「学習支援型教室」について、詳しく教えてください。
坂:「学習支援型教室」は、行政の委託事業です。15市町村にある27教室で、貧困世帯の子どもたちを対象とした居場所型の学習支援型教室を運営しています。
目的は、経済的な問題が何世代も続く連鎖を断ち切るために、「負の連鎖の解消」です。
経済的に余裕のない家庭の子どもたちに私たちが教育をおこなうことで、その子どもたちが将来的にちゃんと自立し、大人になってから“自分の子どもには教育環境をしっかり作ることができるようになる”ことを目標にしています。
また、学校でも放課後に学習の手伝いをしています。勉強が苦手な子どもたちが、勉強がわかるようになることで成功体験を重ね、自己肯定感を育んでもらうことが狙いですね。
ー学習支援は小学生と中学生以外にもおこなっていますか?
坂:行政からの受託事業は中学生の高校入試までが対象ですが、高校生の居場所や学習支援教室も独自で運営しています。
私たちが支援で子どもをお預かりする期間はだいたい1・2年間なのですが、私たちの手を離れたあとに、家庭環境や周りの環境に左右されて学校を辞めてしまう子どもがいます。
たとえば、せっかく高校に入学できたのに中退してしまうと、どうしてもまた負の連鎖に入ってしまいます。連鎖を防ぐためには、高校入学以降も引き続き子どもをサポートすることが大切なんです。
そのため、高校生を対象として学習支援教室のほか、通信制高校のサポート校も運営しております。
学力はもちろん、学習以外のスキルを身につけてもらうために、サポート校ではIT教育や英会話にも取り組んでいるんです。社会で役立つ自分の武器をちゃんと持ち、どこでも活躍できるような人材になってほしいですね。
ー「キャリア教育」について、どのような教育をおこなっているのでしょうか?
坂:高校入学以降は、伴走的に寄り添うことと、さまざまな人と関わる機会を設けることで自発的な学びを大切にしています。
夢や希望を持ちにくい環境にいる子どもたちなので、社会の人と関わり、多くの大人から話を聞き、「自分もこうなりたい」「自分もこういうふうにできるんだ」という目標を見つけてほしいです。
目標や希望を持てると、次は自分が今やるべきことはなにか、目標に近づくためになにが必要かなど、自分で考えて自発的に行動できるようになります。
さまざまな企業の人の話を聞いたり、一緒にワークしたりと、子どもが自発的な学びができるようなるために取り組んでいるのがキャリア教育です。
子どもの自己肯定感を高めることで支える
ー子どもの教育では、どのようなことを大事にしているのでしょうか?
坂:子どもの自己肯定感を高めていくことを一番大事にしています。
私たちの活動では、学習や受験を通して人間的な成長は図れると思うので、しっかり受験と向き合ってもらい、学習面でがんばってもらうことが主な活動ではあります。
しかし、小さいときからの失敗体験の多さや成功体験の少なさが原因で自己肯定感が低かったり、発達障害をもっていたりと、学習以前の課題を抱えている子どもが多いのが現状です。
そのため、子どもの話にしっかりと耳を傾け、子どものいいところをしっかりと理解し、褒めてあげたり、寄り添って抱え込んでいる気持ちを解放してあげたりと、子どもの自己肯定感を高めてあげることが大切なんです。
まずは寄り添うところからスタートしていき、少しずつ学習支援に入っていく。そして、学習支援をおこないながら、自立できる心や夢・希望を社会とともに育てていく、福祉・教育・社会の3つの力で支えているといえるでしょう。
社会全体で子どもたちを育む環境を目指して
ー今後の展望についてお聞かせください。
坂:いまの日本は、少子化により子どもの数が減ってきているけれど、「課題のある子どもが増えている」というのが現状ではないでしょうか。
発達の特性をもっている子どもや不登校など、「困り感」を持つ子どもが増えてきているように思います。
また沖縄県の場合は、子どもの貧困や就学援助児童の増加といった課題もあります。
沖縄は子どもの数がまだまだ多いのですが、課題のある子どもたちも多く、そこをしっかりと教育し育んでいくとができれば、すごく将来に希望のある地域になっていくんじゃないかなと思っています。
「エンカレッジ」だけではなく、社会全体で子どもたちを育んでいき、子どもたちの未来をしっかりと作れるようなを社会を目指していきたいです。
ー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
坂:一般的には、通常の家庭であれば子どもたちに教育環境や学びの機会を与えることができると思いますが、なかには、学びの環境を持つことができない子どもたちがいることも現状です。
私たちは、そういう子どもたちに対して、社会全体で教育環境や学びの場を提供していきたいと考えています。
「エンカレッジ」の活動は、ブログやnoteなどさまざまなメディアでお伝えしていますので、もしよければご一読ください。
私たちの活動が、子どもたちを社会全体で育むきっかけとなってくれたらいいなと願ってます。
そして、活動に共感しなにか賛同できることがあれば、ぜひ賛同していただきたいなと思います。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:NPO法人 エンカレッジ