子どものころ、砂遊びに没頭した記憶はありませんか?川やトンネルをつくったり、丸めた砂だんごを並べたり、延々と遊んだことを思い出す方もいるのではないでしょうか。
実はこうした自然のなかで遊ぶという行為は、美術文化の源でもあります。
今回は、NPO法人「子ども美術文化研究会」理事長の佐々木 法音(ささき ほうおん)さんに、子どもの造形活動や成長との関わりについてお話を伺いました。
感性豊かな子どもに育てたい、子どもの創造力を育みたいと考えている保護者の方は、ぜひご一読ください。
子どもが生み出す造形の素晴らしさを伝えたい
ー本日はよろしくお願いします。はじめに、NPO法人「子ども美術文化研究会」の設立経緯と活動の概要をお聞かせください。
佐々木 法音さん(以下、佐々木):私たちの研究・実践は、戦後に発足した「創造美育協会」の創造派の考え方を基盤に自由度の高い子ども主体の保育の中で、自然に抱かれ、自然素材による遊び=造形活動に取り組み、自然や社会、生活の認識を深める確かな育ちの中で自由画制作に取り組んできました。
先人たちの取り組みを継承する中で発展させながら、現代美術家の⻑谷光城氏と共に研究を深め、子どもが子どもとして生きて、子どもが生み出す表現を何よりも大事にして、子ども自らが生み出す子ども文化=美術文化の真の形成を目指しています。
その取り組みの成果を『子どもが生み出す絵と造形~子ども文化は美術文化(エイデル研究所)』という本にまとめて出版し、以後、活動を継続し進めていけるように「子ども美術文化研究会」を立ち上げました。
全国各地(福井、岐阜、鹿児島、愛媛、徳島、東京、熊本など)の保育園やこども園が参加して、「子ども文化は美術文化(アート)」との共通認識のもと、遊びや造形活動、そして描画活動に積極的に取り組んでいます。
2013年からは『いのちかがやく子ども美術展』を東京や熊本、福井、鹿児島、松山、徳島など全国各地でで開催し、2015年にはドイツ、2016年には上海など、海外での展示活動や現地での保育園との交流活動もおこなっているんです。
子どもが主体的に活動できる環境を大切に
ー活動について詳しく教えてください。
佐々木:参加園が保育実践の中で、自然体験活動や造形遊び、描画活動をおこなっています。
ワークショップのようなものを開催しているわけではなく、各園の子どもたちが日々の遊びのなかで自然に抱かれ、自由に自然体験や自然素材を用いた遊びができるよう、環境を整えることを大切にしています。
その上で、子どもたちが自ら感じることで感性が育まれ、心と体の発達が促されることを目指しています。
自然素材を準備し、子どもを主体とした保育によって、子どもたちは自ら遊びを発見し拡げ、深め、友達と一緒になってスケールの大きな遊びを創り出します。子どもが子どもとして取り組む造形活動は、生きる基礎・基本の力を育むものすので、「生活=遊び」のすべてと捉え見守っています。
また、子どもは、自然を感じ五感をフルに活用して働きかけるということを繰り返しながら、心と体を発達させていくので、「子どもたちが感じたままに表現する世界」というのを大事にしています。
ー子どもたちは具体的にどのように遊んでいるのでしょうか?
佐々木:発達段階によって遊び方は異なりますが、私たちは現代アートの作品をヒントに分類しています。
まずは素材と出会い意欲的に物と関わろうとする段階。「触る」とか「叩く」とか「口に含む」などですね。
そういった行為を繰り返しながら子どもたちは素材の特性を知り、次はその素材を使ってなにかをつくるという段階がきます。
たとえば「水」が素材の場合は、まずは水に触れるというところから始まって「発見」、水を叩いたり足で蹴飛ばしたりして「拡げる」「深める」、年齢を重ねていくうちに川や水路、温泉をつくったりという発展「ともに遊ぶ」多様な遊びをが生み出されます。
そのような姿を目の当たりにしたときは、驚きとともに子どもは天才アーティストだなと再確認させてくれるんですよ。
造形活動を通じて感性と身体機能を育てる
ー活動に参加することによって、子どもたちはどのようなことが学べるのでしょうか?
佐々木:「心と身体がまるごと育つ」ということですね。「身体装置の機能を獲得する」とも言えるでしょう。
乳幼児期の子どもたちは、自由で豊かな遊びのなかで「きれいだな」「ふしぎだな」「こうしたらどうなるだろう」といったセンス・オブ・ワンダー(不思議さに目を見張る感性)を働かせながら、活動意欲が高まり、自分自身の発達を促すことにつながります。
特に、自然素材は子どもたちの五感に強く働きかけるので、味わう達成感もより大きくなりますよね。
このような体験を繰り返すことで、子どもたちの脳はひらいていき、身体的装置が機能するようになると考えています。
また、自然と関わることで、命の大切さや自然の恵みもリアルな体験として獲得できます。
さらに、友達と遊び、集団で生活することで社会性やコミュニケーションもとりながら、自分の気持ちや相手の気持ちにも気づきながら、ともに育ちあっていきます。すると自己肯定感や自己有用感が育まれていきます。
ー展示活動である『いのちかがやく子ども美術展』についても教えてください。
佐々木:美術展では「自由画」といわれる水彩絵の具で描かれた絵を飾ります。また、美術展では、子どもたちが自然と遊ぶなかでつくりだしたものをひとつの作品と捉え、造形作品や外遊びをしている様子の写真や動画を展示しています。
水彩絵の具といっても、トロトロとしたものを使っています。自然のなかでの泥んこ遊びに近い感覚であつかえるんですね。
使う筆は20号の馬毛という太くてやわらかいものです。
この水彩絵の具と筆によって、子どもたちの心は解放され、自由な心象表現が可能となります。
たとえば、0~1歳児の場合、まず点を打ち、そこに線を引くことで、線を集めた面らしきものを描けるようになります。動きのある線や点によって、躍動感のある大きな絵を描くことも。
これが2歳児になると、友だちとの関わりが活発になるので、友だち関係をシンボリックに描いたような、大きな2つの塊を抽象的に描いた絵も出てきます。
そして、3歳児は運動機能が発達するので絵にも厚みが出てきます。
4歳児は、仲間とのつながりが深まるなか、自己と他者、内と外の世界など自分がとらえたものごとを、色を選びながら表現することができるようになるでしょう。
さらに、5歳児は迫力と躍動感のある、誠実で建設的な絵を生み出していきます。
このように、「自由画」と子どもの遊びと発達段階とは、深い関係があることがわかりますよね。
次世代を担う子どもたちの健やかな成長を願って
ー今後の展望と、最後に読者へメッセージをお願いします。
佐々木:子どもたちとのかけがえのない時間を大切にしていきたいと思います。
このコロナ禍でソーシャルディスタンスやマスク、リモートなど、保育の場面にも様々な変化が起こっています。しかし、「子ども美術文化研究会」の保育は、こんな時だからこそ、自然体験や群れて遊ぶことの重要性を訴え、取り組んでいきたいと考えています。
また、乳幼児の自由画は、その時にしか描けないものです。子どもの育ちや心の在り様そのものであり、じっと眺めていると愛おしさが込み上げてきますよね。
各家庭に子どもの分身として絵を展示し、愛でてもらえるように働きかけていきたいです。
また、新型コロナウイルスの流行が終息したら、子どもたちが生きる世界の魅力を沢山の人に知って欲しいということで、『いのちかがやく子ども美術展』を海外で開催することを夢見ています。
これからも子どもたちの素晴らしい世界を喜び合う団体を続けていきますよ。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:子ども美術文化研究会