「将来は美容師になりたい」…そのような夢を持つ子どもが美容師を目指すとき 、一般的には高校卒業後に美容学校へ進学する必要があるのではないでしょうか。
しかし、小・中・高校生が美容業界に入るためには、高校を卒業するまで専門的な勉強が一切できないかというと、そうではありません。
九州を中心に活動するNPO法人「ジュニアヘアドレッサーズスクール」は、美容業界で初めて小学生から高校生を対象に美容技術を教えているスクールです。
今回は、「ジュニアヘアドレッサーズスクール」代表の久保 義明さんに、スクールの指導内容を伺いました。
美容業界に興味のある方は、ぜひご一読ください。
幼いころから美容技術に触れる環境を目指して
―本日はよろしくお願いします。まず、NPO法人「ジュニアヘアドレッサーズスクール」はどのような学校でしょうか?
久保 義明さん(以下、久保):NPO法人「ジュニアヘアドレッサーズスクール」は、小学3年生から高校生ぐらいまでの子どもたちを対象とした九州のカットスクールで、現在九州を中心に9か所の教室を展開しています。
これから美容師を目指したいという社会人の方でも通うことできます。
卒業後は、当スクールが運営するサロンにそのまま就職することもできるんですよ。
多くの子どもたちに「美容文化や美容技術に幼いころから触れてもらいたい」という想いから、2015年に設立しました。
―どのような経緯で設立されたのでしょうか?
久保:美容師といえば、どうしても「大変」や「難しい」というイメージが最初に出てきますので、美容師は他人に喜んでもらえるし、「楽しい」「うれしい」職業であると伝えたかったのです。それに、近年美容師の成り手が減ってきていることに課題を感じていました。
さらに、最近は少子化で子どもたちが少なくなってきています。
野球やサッカー、ピアノなどは、小さい子どもでも入れるスクールが多く、小さいころから教えてもらえる環境があるのに対して、美容業界にはそういった環境がこれまでありませんでした。
私は、“このままでは美容師がいなくなってしまう”という危機感を抱き、“美容業界を、もっと若い人たちが入ってくる業界にしたい”と思い、業界初の小・中・高校生向けの美容スクールをつくろうと思ったのです。
東京大学のからだの使い方「左腕の優越」を参考にプログラム開発
―「ジュニアヘアドレッサーズスクール」では、どのような指導をしているのでしょうか?
久保: 当スクールでは、現在小学3年生から高校生までの20名ほどの生徒が在籍し、実力のある現役美容師が子どもたちを指導しています。
これまでの美容業界は、どちらかというと“Aさん”というカリスマ美容師がいたら、その技術を真似するという捉え方だったと思います。
しかし、それでは学ぶ人の感性や感覚を自分のカットスタイルに反映することができません。また、将来美容師としてお客様を担当するとき、そのお客様も誰かのコピーではなく、自分に似合うスタイルを提案してほしいと思うでしょう。
そこで私たちは、一人ひとりのお客様のためにカットのデザインを提案できる美容師の育成に力を入れています。
当スクールでは、東京大学の、運動科学と脳科学の見地から効果が実証された肘やからだの使い方を取り入れているため、効率的に美容の技術を身につけることができるんですよ。
数年前、脳と腕の使い方を研究されている東京大学の教授がいらっしゃったのですが、その方の論文のなかに「左腕を有効に使うことで学習能力が2倍上がる」という研究結果がありました。
この論文に非常に感銘を受けた私は、当スクールの教育プログラムのなかに、この理論を取り入れて指導しようと考えたのです。
右手だけでなく「左手も有効に使いながらカットをする」という私たちの指導方法は、美容業界誌の社長も非常に興味をもってくださり、東京から見学に来てくださったこともありましたね。
生徒のヘアスタイル作品をWEBで紹介
―今後開催予定のイベントについて教えてください。
久保:新型コロナウイルス感染拡大の影響で、今のところイベントの開催やコンテストへの参加予定はありません。
ただ、子どもたちのために何かはする必要があると思っているので、生徒のヘアスタイル作品を撮影して、ブログやSNSで発信するなどの活動は継続的におこなっています。
“コロナ禍”が落ち着いたら、イベントやコンテストにも取り組みたいですね。
“技術面”で評価される美容師を育てたい
―今後の展望について教えてください。
久保:まずは、当スクールの活動を全国に広げていきたいです。
“ダンス甲子園”があるように、今後、美容技術やカット、ワインディング(美容室等でパーマをかける際、頭髪にロッド等を巻く作業)を競う甲子園のようなものを実施できたらいいですね。
また、あと2~3年後くらいには、東南アジアの若い人たちに美容技術を教えたいと思っています。
その人たちが、いずれはアメリカやヨーロッパでスタイリストとして活躍し、豊かな生活を送ってもらえるような支援をしたいですね。
たとえば、その方たちが自国でお店を開業する際は、資金を全国から募るクラウドファンディングなどで応援したいという構想があります。
―最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
久保:美容師の仕事というのは、携わる人の“人間性”や“ファッション性”、“知性”が集約されている業種だと思います。
ところが今までの美容業界は、“表面的なかっこよさ”や“雰囲気”といったところで評価されがちです。しかし私は、“総合力”で評価されるような美容師を育てたいんですよ。
そのように思うようになったきっかけの出来事があります。私はサラリーマンから美容業界に入ったのですが、美容師として働き出してからしばらく経ったあるとき、働いていたお店の前に年配の方がうずくまっていたことがありました。
その方は末期のがんだったのですが、「最後にあなたにカットしてもらって人生を終わりにしたい」と言われました。
そのとき、私は「美容師の仕事を選んでよかった」「真剣に向き合っていてよかった」と心から思いましたね。今でも忘れられない出来事です。
美容師というのは、人に与える影響や喜びが大きい職業です。
だからこそ、表面的なかっこよさだけではなく、技術面もしっかり子どもたちに伝えていきたいと思います。
―本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:NPO法人 ジュニアヘアドレッサーズスクール