最近、“持続可能な開発目標(SDGs)”という言葉とともに、「世界を持続可能でよりよいものにしていこう」という動きが注目されています。
そのような持続可能な社会の実現のために、任意団体のころから現在に至るまで30年以上活動をしているのが、NPO法人「くすの木自然館」です。
「くすの木自然館」は、鹿児島県を中心に、人と野生生物が無理なく共生できる社会を目指して活動しています。
今回は、「くすの木自然館」専務理事の浜本 麦(はまもと ばく)さんにお話を伺いました。
「環境保全」や「持続可能な社会づくり」に興味のある方は、ぜひご一読ください。
持続可能な世の中をつくるために30年以上活動
ー本日はよろしくお願いします。まずは、NPO法人「くすの木自然館」の設立経緯について教えてください。
浜本 麦さん(以下、浜本):NPO法人「くすの木自然館」はもともと、1987年に設立された「鹿児島自然観察指導員連絡協議会」という名前の任意団体でした。
「鹿児島自然観察指導員連絡協議会」 は、NACS-J(日本自然保護協会)という全国団体に所属する“自然観察指導員”という民間資格を持つ鹿児島県の人たちが集まった連絡会であり、鹿児島の自然の面白さ、楽しさ、豊かさを多くの人に届け、「よりよいかたちで」未来まで残すことを目的として活動していました。
このころ、組織のメンバーはそれぞれほかの場所で別の仕事をしていたのですが、環境教育や自然体験に注目が集まる時代となり、活動の重要性からほかの仕事をしながらでは、活動の継続が厳しくなってきたのです。
行政からも、仕事を発注したいから「法人格をとってもらえないか」との相談もあり、NPO法人「くすの木自然館」を設立しました。
「くすの木自然館」の名前の由来は、鹿児島の大地に強く深く根を張り、どんな台風にも災害にも倒れることなく天に向かって枝を広げる“クスノキ”にあります。
「くすの木」は、私たちに見えている枝の広さの倍くらい根を張ります。そのように鹿児島の地に、揺らぐことのない根を張る活動をしていきたいと願いを込めて「くすの木」の名を入れました。
また、「自然館」という名称は建物ではなく、“活動に関わる人たち”のことを指します。
「たくさんの人々に支えられ、関わりを持ちながら活動を広げていきたい」「その活動の柱の一本一本を、さまざまな分野の人たちに支えてもらいたい」
そのように、信頼で結ばれた人々の柱の上に大きな屋根がのり、「自然館」をつくっていきたいという思いを込めています。
「人が自然と無理なく共生できる、持続可能な世の中をつくる」という活動の目的は、任意団体のころから現在まで変わっていません。
未来を担う子どもたちに環境教育を
ー「くすの木自然館」がおこなっている活動について教えてください。
浜本:「くすの木自然館」の活動は、環境教育に特化しています。
子どもたちが参加できる活動としては、「学校での環境教育」、エコツアーなどの「自然体験活動」、「重富海岸自然ふれあい館なぎさミュージアム」という展示施設の委託管理の3つがあります。
「学校での環境教育」では、指導要領に沿ったかたちで、様々な環境教育プログラムを提供しています。子どもたちに向けて、「学校教育には入っていないけど、今後の未来を考えるために知っておいた方がよいこと」に関する環境の授業をおこなっていますね。
具体的には、生き物同士のつながりや、生物多様性についてのこと、持続可能な社会のために大切なことを、よりわかりやすく授業のなかに組み込んで教えるということを、近くの小学校や教育委員会の皆さんと協力して実施します。
また、学校周辺の生き物調査を通して、自分たちの生活している場所の未来について考えるプログラムをおこなうこともあるんですよ。
「自然体験活動」では、一般の方々が参加できるエコツアーとして、干潟や磯の生き物観察、バードウォッチング、川の生き物観察、海の漂着物調査などをメインでおこなっています。依頼があれば、トレッキングや昆虫の観察ツアーもおこないます。
さまざま体験活動を通して、「この場所を守りたい、残したい」と思う方を増やしたり、実際に自然を守る活動をおこなえる人材を育てたりします。
参加して、ただ「楽しかったね」や「勉強になった」で終わるのではなく、「この環境を残していくためにできることって何があるのだろう?」と考え、できれば一歩踏み出してくれるところまでサポートするために、エコツアーをおこなっていますね。
「重富海岸自然ふれあい館なぎさミュージアム」は、霧島錦江湾にある環境省の展示施設であり、「くすの木自然館」が委託管理をおこなっています。
環境省から委託管理を受けているため、無料で見学できます。
展示内容は、霧島錦江湾国立公園の錦江湾地区に特化しており、「錦江湾ってどんな海なのか?」ということや、「錦江湾がどのようななりたちでできていて、そこにどのような生き物たちがいて、その生き物たちが私たちの生活にどのようにつながっているのか」など知ることができるんですよ。
展示を「見る」だけでなく、「触れる」展示もあるため、小さいお子さんから大人の方まで楽しむことができます。
ー子どもたちに対して、ほかにはどのような学びを提供しているのですか?
浜本:たとえば、保育園児には「生き物がたくさんいることは楽しいし面白い」ということだけでなく、「この生き物たちが生き続けるにはこういう環境が必要で、その環境がなくなったら見られなくなる」ということを学べる体験学習をおこないます。
小学生に対しては、生き物だけでなく環境問題全般について、学年ごとの学習に合わせて出前授業を実施しますね。
ごみ問題や海洋プラスチック問題、生物同士のつながりや生物多様性の問題について説明したり、小学6年生や中高生には、キャリア教育をおこなったり、最近はSDGsに関する授業をおこなうこともありますよ。
また、大学生のインターンも積極的に受け入れており、大学生の長期休みを活用して、エコツアーのサポートなどをしてもらいます。
参加者のニーズに合わせてイベントを開催
ー今後、開催予定のイベントについて教えてください。
浜本:現在は、残念ながら新型コロナウイルスの影響で、複数人を特定の日に集めておこなうイベントは企画していません。
その代わり、お客様の要望に応じてツアーを企画しており、エコツアーであれば、“ひと家族限定”といったかたちで受け付けています。
たとえば、「何月何日のこの時間に何かの自然体験がしたい」というお問い合わせをいただければ、「その日時であれば潮が引くので、一緒に干潟に行きませんか」という提案をさせていただくことができます。
時間帯的に干潟を見ることができない場合は、「代わりにバードウォッチングやマイクロプラスチックを探しに行きましょう」と提案させていただくことがありますね。
お客様のニーズに合わせて企画することが可能なので、「こんなことを勉強したい」「こういうことを体験したい」というご希望があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。
大人数でなくても、家族単位からお申し込みができますし、予算も、低価格なものからしっかりと研修できるようなものまでご要望に合わせて、お受けします。
「楽しさ」「面白さ」を大事にした企画をしていきたい
ー今後の展望について教えてください。
浜本:今後も、「人と野生生物が無理なく共生できる持続可能な社会をつくる」という目的に向けて活動したいと考えています。
そのために、さまざまな専門性を持つ方々とより深くつながって活動していく予定です。
私たちは、野生生物や生物多様性については専門家なのですが、活動内容によっては魚の専門家が必要だったり、絶滅の危機に瀕している動物に詳しい方の知識が必要なときもあるんですよ。
今年度は、「鹿児島水族館」、「鹿児島市平川動物公園」、「かごしま環境未来館」、それに私たち「くすの木自然館」の4つの団体共同で連続講座と企画展をおこないましたが、それぞれのもっている専門性を活かしたとても楽しい活動ができたと思います。
多くの人々に「自分たちの生活を見直したほうが未来は明るい」と思ってもらえるような仕組みやきっかけを、いろいろな団体の方たちと一緒に、さまざまな角度からつくっていきたいです。
ー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
浜本:「持続可能な社会が必要だ」と叫ぶのは簡単ですが、実現するのは難しく、環境問題も勉強すればするほど、「もう取り返しがつかないのではないか」という暗い気持ちになることがあるかもしれません。
しかしながら、そういったマイナスの感情にばかりとらわれるのではなく、「おいしい」「きれい」など、プラスの感情を向けられる身近なことについて考えていけばよいと、私たちは考えます。
たとえば、「おいしいご飯をこれからも食べたい!」と思うなら、ご飯の食材になっている生き物が生き続けられるようにする。「きれいな景色がみたい」なら、ゴミがすくなくなる行動をとる。といったように、自分にできることを考えて、一歩ずつ始めていきましょう。
それは、環境問題のような大きいことを考えるよりも大事なことだと思います。
私たちの団体が実施しているエコツアーや授業、その他の活動もすべて、「楽しさ」や「面白さ」という面を大事にして企画しているので、環境問題を難しく考えずとも、「楽しいことをやってみたい」と考えている方はぜひお気軽にお問い合わせください。
また、海に行くにしても山に行くにしても、私たちのような専門家と一緒に行くと、いつもは気づかないことに気づくこともあるので、積極的に「くすの木自然館」を活用いただけるとうれしいです。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■ 取材協力:NPO法人 くすの木自然館