2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップが、大きな感動を呼んだことは記憶に新しいところでしょう。
ラグビー憲章によるとラグビーは「品位、情熱、結束、規律、尊重」という5つのコアバリューで成り立っているとされ、ラグビーを通してこれらを子どもに教えているのが「NPO法人熊本ラグビースクール」です。
子どもだけでなく、一緒に活動する大人も共に成長することを目標としています。
今回は「NPO法人熊本ラグビースクール」の校長である金森 大次郎(かなもり だいじろう)さんと事務局長の新井 尊久(あらい たかひさ)さんにお話を伺いました。
ラグビーに興味がある方はもちろん、子どもの人間性を成長させたい保護者の方は必見です。
来年で設立50周年を迎えるラグビースクール
ー本日はよろしくお願いいたします。まずは、「熊本ラグビースクール」の概要について教えていただけますでしょうか?
金森 大次郎さん(以下、金森):「熊本ラグビースクール」は昭和47年5月に設立され、来年で設立50周年を迎えるラグビースポーツクラブになります。
当初は28名で始まりましたが、昭和52年ごろには100名を突破。日本で開催された2019年のラグビーワールドカップを契機にラグビーに興味を持つ方が増え、現在では152名というかなりの大所帯になりました。
最初の28名のうちの一人が私であり、ほかにもスクールOBの保護者たちが指導者となって活動しています。
練習は、小学生は毎週基本日曜日、中学生は毎週土曜日および日曜日です。時間は朝9時からで、グラウンドは熊本県内の4か所を使っています。
小学6年生は秋の九州大会、中学生は夏の九州大会を目標にしています。ほかの学年は九州各県のラグビースクールと年間7試合ほどの交流試合をおこなっています。
大会に向けて例年は春と夏に合宿もやっているのですが、残念ながら新型コロナウイルスの影響でここ1,2年は開催できていません。
「5つの約束」でラグビー精神を身につける
ー「熊本ラグビースクール」の具体的な活動や学べる内容について教えてください。
金森:「楽しいラグビー、明るいラグビー」を目指して、未就学児から中学3年生まで幅広い子どもたちが活動しています。
また、保護者とコーチがボランティア精神で協働し、お互いの「人間力の向上」「指導力の向上」に努め、地域社会に貢献するのも目標にしています。
ラグビーを通して学べることは「品位、情熱、結束、規律、尊重」の5つで、ワールドラグビーという世界的な協会が定めたラグビー憲章というものがあり、これら5つのコアバリューをラグビーがもたらすとされているのです。
ラグビーはコンタクトプレーがあるスポーツなので、ルールなくやってしまったらただのけんかになってしまいますが、各プレイヤーに品位や規律があって試合が成り立っていくのです。
そして、試合後にはお互いに尊敬し合い仲良くなる。そういったことを体験できるのがラグビーというスポーツの醍醐味だと思います。
子どもたちにもこのラグビーの魅力をわかってもらえるように、私たちの団体では「5つの約束」を独自に作り、練習開始前に必ず朝礼で皆で唱和するようにしています。
1つ目は「大きな声であいさつします」、2つ目が「ありがとうの気持ちを伝えます」、3つ目が「自分のことは自分でします」、4つ目が「仲間とお互いに助け合います」、そして5つ目が「ノーサイドの後は対戦相手とも仲良くします」です。
これらの約束を唱和した後で練習をおこない、大切な言葉を理解してもらいながらプレイすることで、ラグビーを通して人間的な成長を遂げられると思っています。
子どもの成長と幸せを大切に
ー「熊本ラグビースクール」ではどのような方がコーチをされていて、どういった指導をされているのでしょうか?
新井 尊久さん(以下、新井):コーチについては、スクールに来ている子どもの保護者のなかから、教えるのが好きそうな方がいればお願いしてやってもらっています。
コーチはほとんどの方が経験者ですが、未経験者でも熱意があればやっていただいているんです。
指導は学年別におこなっており、学年ごとにヘッドコーチを決めて指導内容や具体的なメニューはお任せしているという形態です。
ただ、それだけだと指導がバラバラになってしまうため、コーチング要領書というのを作成しています。内容は「怒鳴らない」ということから始まり、子どもたちへの声掛けのスタンスなどがあり、おかしいところがあれば指摘しています。
金森:お父さんだけでなく、お母さんのなかにもコーチをやっている方がいるのも熊本ラグビースクールの特徴ですね。
まったくの素人なのですが、「子どもと一緒にラグビーを楽しみたい」という熱意があり、コーチを引き受けてくれています。
また、生徒のなかにも女の子が4人いまして、男女関係なくラグビーを楽しんでいるというのは、いい方向に向かっていると感じています。
新井:指導方針としては、スクールの理念である「子どもの成長と子どもの幸せ」に基づいており、 一昨年「子どもの幸せとはなんだろうか?」ということをあらためて整理し、「幸せは楽しいこと」だと定め、子どもがラグビーを楽しいと思えるようなチームや指導を目指してやっています。
ほかのスポーツチームでは、上手ではない子は全然試合に出られないという話も聞きますが、私たちのチームではどれだけ上手くなくも、子どもたち全員がラグビーを楽しめるよう、試合の出場機会を均等にすることを大事にしてます。
楽しいことを続ければラグビーに対しても力が入るでしょうから、最終的には子どもたちが高いリーダーシップを持ち、社会に出てからもきつい状況を笑顔で乗り越えられるような強い人間になってほしいですね。
ラグビーを通して人間関係を豊かに
ー体験入校はおこなっているのでしょうか?
新井:はい。熊本ラグビースクールでは希望者がいればその都度受け入れて体験していただいております。年数回、日本ラグビーフットボール協会主導で「全国一斉体験会」というのも開催しています。
当スクールでは特別なメニューを作って体験してもらうというわけではなく、これから一緒に練習するかもしれない同学年の仲間に入ってもらって、練習以外のコミュニケーションも含めてチームを体験してもうのをメインにしてますね。
ー今後の展望についてお聞かせいただけますでしょうか?
新井:子どもたちが楽しめるチームであり、自分自身の成長を子どもが実感できることを大事にする、そういった組織になっていきたいと思います。
また、練習においても子供達が成長を実感できるように、コーチ側がスキルを上げることも目標の1つです。「勝ちたい」を目標にする子もいますので、そういった子たちに達成感を与えて、楽しいと思えるようにするためにも、コーチングスキルを高めていきたいですね。
しかし、勝ちにこだわり過ぎて人間性を疎かにしてはならないので、コーチ自身がまずちゃんとした人間性を持っていることが大切だと考えています。
金森:今年は中学生が九州大会で準優勝し、全国大会に出場できることになりました。
これはこれで成果の1つとして認めるとしても、やはり強さだけを求めていくのでは新井も言ったとおりギスギスした世界を招きます。
子どもたちにはラグビーを通して人間的に成長し、社会に出てラグビーで学んだことを活かせる人間になってほしいというのが私たちの願いです。
そして、その子どもたちが大人になって、さらに子どもを連れて熊本ラグビースクールに帰ってきてくれて、また一緒にラグビーを子どもと楽しむというような流れができればいいなと思っています。
保護者の方たちには、子どもを預けてただ見ているだけでなく、事務局や学年委員という形で参加していただくことで、皆で一緒にスクールを盛り上げることができるような運営を努めていきたいです。
ー最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
新井:ラグビーは、一度かかわると好きになる人が多いスポーツだと思っています。
皆で和気あいあいと楽しくやっていますので、少しでも興味を感じたら1度練習を体験しに来てください。
金森:ラグビーは経験することで本当に自分の成長につながります。
「ラグビーファミリー」と呼ばれる仲間、一緒に戦った同世代のチームメイト、対戦相手、さらには上下の年代の方やラグビーを好きな周りの方たちとのつながりも広がっていきます。
このことは人生にとって大変プラスになることであり、ラグビーを小さいときからやってラグビーの5つのコアバリューを体得することで、ラグビーのプロにならなくても、それぞれが自分のフィールドで活躍する「プロの選手」になれることでしょう。
ぜひお父さんやお母さんも子どもと一緒に来ていただき、そしてラグビーを好きになってくれればと願っています。
「熊本ラグビースクール」にラグビーを体験しに来てください。待っています。
ー本日は貴重なお話をしていただきありがとうございました!
■ 取材協力:熊本ラグビースクール