子どものころに劇や音楽などの舞台鑑賞をした体験が、大人になっても記憶に色濃く残っている人は多いのではないでしょうか。
今回は、そのような文化や芸術の機会を子どもたちに届けるNPO法人「熊本県子ども劇場連絡会」代表の中島 久美子さんにインタビュー。
舞台鑑賞を通して、子どもの感性を育みたいと考える保護者の方は、ぜひご覧ください。
「子どもたちに生の舞台を届けたい」思いで設立
ー本日はよろしくお願いします。はじめに、NPO法人「熊本県子ども劇場連絡会」の設立経緯と活動内容について教えてください。
中島 久美子さん(以下、中島):NPO法人「熊本県子ども劇場連絡会」は、1966年に福岡県で発足した「子ども劇場」から広がり、熊本に、1972年に熊本子ども劇場として生まれ、現在につながっています。
1960年代のテレビの普及により、子どもたちが文化や芸術を学ぶ機会が、テレビを通した間接的な体験にかたよるようになりました。
子どもたちが生で何かを体感する機会が乏しくなってきたため、特に「生の劇を見る機会が少ない地方で子どもたちに劇を提供したい」という思いから、「子ども劇場」の設立に至りました。
そして、2002年にNPO法人としての認可を受けました。
「熊本県子ども劇場連絡会」には、乳幼児から高校生、青年まで、幅広い年齢の仲間が集います。
私たちは、“子どもたちの生きる力を育むこと”をモットーに、子どもたちにさまざまな分野の舞台鑑賞体験を提供しながら、地域のつながりをつくる文化活動を続けているんですね。
子どもたちは、劇づくりやレクリエーションを通して仲間とかかわりながら、コミュニケーション能力や伝える力、課題解決力や自己肯定感を培うことができるのではないかと思います。
さらに、「熊本県子ども劇場連絡会」は、大人たちが“子どもの権利条約”について学び合う場でもあります。
特に、子どもの権利条約第31条「児童が余暇に文化・芸術活動に参加する権利をもつ」のもと、“子どもにとって最もよいことを”を理念に、文化活動を促進しているんですよ。
親子で参加できる体験活動や地域公演を開催
ー「熊本県子ども劇場連絡会」がおこなう活動について、具体的に教えてください。
中島:「熊本県子ども劇場連絡会」では主に、加盟団体が主催して音楽や人形劇、芝居、伝統芸能などの舞台鑑賞を企画する「舞台鑑賞活動」をおこなっています。
くまもとし子ども劇場ややつしろ子ども劇場で定期的にイベントを開催したり、年に3~4回子どもの成長発達に沿った作品の舞台鑑賞会を企画するほか、親子でキャンプや川遊びができる自然体験や運動会、「劇あそび」などを楽しむ会員制の「地域体験活動」などもおこなっていますね。
運動会では、遊び要素を取り入れた競技プログラムを参加者たちで考えたりと、子どもたちの“考える”機会を提供する工夫をしています。
「地域公演」では、ご依頼のあった保育園や学童保育所に人形劇団や音楽家をつないで、舞台公演を開催しています。
ー「劇あそび」とはどのような活動でしょうか?
中島:「劇あそび」は、子どもたちが主体となってお芝居をつくり、最後は発表会をおこなう活動です。
プロの劇団の方をお呼びして、わかりやすくお芝居のつくり方を教えていただくことで、子どもたちは自由な発想と自分の言葉で、のびのびと表現を楽しむことができます。
劇あそびのなかには、伝統芸能の体験もあり、子どもたちが獅子舞を動かす「獅子舞体験」に取り組んだこともありましたね。
劇あそびは、「2歳から参加可」「小学生限定」「中学生以上対象」など、主に年齢ごとに分けて実施しており、レクリエーション感覚で参加することができますよ。
ー続いて、「地域公演」について教えてください。
中島:「地域公演」は、子どもたちが生の音楽や舞台にふれる機会をつくることを目的に、お芝居、人形劇、落語、マジックショー、音楽など、さまざまな舞台を地域の子どもたちに届ける活動をしています。
ご依頼のあった幼稚園や保育園、子ども会などに赴き、「どのような内容の舞台がよいか?」「子どもの年齢は?」「どのくらいの予算か?」など、各々の要望に合わせた舞台を提供します。
昨年は“コロナ禍”によって開催数が随分減ってしまいましたが、感染対策を徹底しながら、できる限り子どもたちに舞台を届けていきたいですね。
小さな子どもでも楽しめる歌舞伎公演を予定
ー今後、開催予定のイベントなどがあれば教えてください。
中島:21年12月5日に、「熊本県子ども劇場連絡会」50周年特別企画として、歌舞伎劇団「前進座」による公演「創作歌舞伎『牛若丸』」を予定しています。
歌舞伎と言っても、理解しやすいシンプルな内容なので、子どもにとっても歌舞伎初心者の大人にとっても楽しく観劇できますよ。
「牛若丸」に関する物語は、主人公・牛若丸とそのライバル・弁慶の掛け合いなどがあり、今でいうヒーローものの物語と似ているため、子どもたちは、登場人物の活発な立ち回りにドキドキしながら楽しんで鑑賞できると思います。
また、色鮮やかな衣装や、豪華な舞台装置も見ものですね。
歌舞伎本編の前には、歌舞伎の成り立ちや面白い見方をわかりやすく解説する時間を設けているので、本編の上演前にご覧いただくことで、さらに内容が理解しやすくなるでしょう。
新型コロナウイルス対策としては、広い劇場でソーシャルディスタンスを保ちながら開催する予定です。
小さなお子さんが歌舞伎を鑑賞できる機会はとても貴重なので、おすすめですよ。
詳細やチケット情報は、公式ホームページの舞台・活動スケジュールで公開しているので、ぜひご参加ください。
文化体験で子どもたちの感性をより豊かに
ー今後の展望をお聞かせください。
中島:コロナ禍以来、リモート授業などの便利な勉強手段が増えていますが、やはりリアルの場で人が出会うことの大切さを実感しています。
それを子どもたちとどう共有していくかは今後の課題ですが、目指しているのは、「お絵描きがもっと上手になりたい」「楽器が弾けるようになりたい」など、子どもたちが夢を広げられるような文化体験を提供することですね。
私たちは、子どもたちが好きなことを見つけられる、それを仲間と共有できる、大人がそれを見守れる…そのような環境づくりのため、活動を続けていきたいと思います。
ー最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
中島:子どもは、実にさまざまなものを吸収する力をもっています。
子どもたちにとって、音楽や美術、芝居などを鑑賞することは、感性や世界観を広げてくれる大切な体験なのではないでしょうか。
子ども時代はあっという間に過ぎてしまいます。
その間に、できるだけ親子で生の舞台を鑑賞し、感動を共有する思い出を残してほしいです。
皆さんがお住まいの近くで私たちのイベントや活動がある場合は、ぜひ参加してみてくださいね。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:NPO法人 熊本県子ども劇場連絡会