時代の変化とともに、多様な価値観を受け入れる社会が重要視され始めましたが、それは大人に限った話ではありません。
近年、学校に居場所を見つけられず、苦しんでいる子どもたちが多くいる現状をご存じでしょうか。
このストレス社会のなか、“不登校・引きこもり”という形で出す子どもたちからのSOS。学校に行きづらい子どもは昔からいましたが、画一的な教育では、今の子どもたちは適応できなくなっているのが現状です。
今回は、学校へ行きづらくなってしまった子どもの居場所や、支援に奮闘する、NPO法人「しののめフリースクール」理事長の中村 紫乃さんにお話を伺いました。
「学校に行きたくない」そんな思いを抱いても無理をしなくて大丈夫。そんなときは、まわりに助けを求めましょう。
生きづらさを抱えている方、フリースクールに通わせようか考えている保護者の方は、ぜひご一読ください。
不登校の子どもたちが安心できる居場所「しののめフリースクール」とは
ー本日はよろしくお願いいたします。まず初めに、「しののめフリースクール」はどのような活動をしている団体なのでしょうか?
中村 紫乃(以下、中村):私たちは、学校へ行きづらい子どもたちを受け入れて、学校の代わりとなる居場所を提供している団体です。
臨床心理士、公認心理師などの支援員も対応しており、勉強面のサポートや、子どもたちの興味、関心に沿った支援をおこなっています。
施設を利用しているのは、大人数のなかにいるのが苦手、ほかの人とのコミュニケーションがうまく取れない、いじめや学校とのトラブルなど、さまざまな事情を抱えた子どもたちです。
それぞれに事情があることを子どもたち同士も理解していて、お互いにサポートしあえる関係を築いているんです。
学習のほかにも、トランプや人生ゲーム、卓球や風船バレー、施設でのイベントなどを通して交流を深めています。
また、子どもたちの在籍校とも連携をとっているため、学校へ行かなくても出席扱いにしてもらうことが可能です。
ー訪問による支援もおこなっていると伺いました。
中村:そうですね。ただ、コロナの関係で、自宅に伺うのが難しい状況です。
そこで、今後はオンラインを活用した支援をしていけたらと思っています。
当施設では、不登校の子どもたちや、子育てに悩む大人のカウンセリングも実施しているのですが、最近ではオンラインでのカウンセリングを取り入れ始めたんです。
希望があれば、言葉の理解力を検査するPVT-R(※1)や、知能検査のWISCⅣ(※2)といったツールを使い、結果をもとにその子の特性や、伸ばしてあげたいところなどのアドバイスを受けられます。
(※1)3歳0カ月~12歳3カ月を対象とした「語いの理解力」の発達度を測定する検査 (※2)ウェクスラー式知能検査のひとつで、全体的な知的能力や記憶・処理に関する能力を測るテスト
ー「しののめフリースクール」設立に至るまでの経緯を教えてください。
中村:設立に至る大きなきっかけは、学校に行きづらくなっていた身内がいたことです。
当時、周りの大人はその子をなんとかして学校へ行かせようとしていたのですが、近くで見ていた私は「サポートの仕方が違うのではないか」と疑問に思っていました。
自分に合う環境は人それぞれ違うものだし、今の学校教育においても、全員の子どもに一律の教育をおこなうこと自体が難しい問題。そのようなやり方では、子どもたちの多様性を受け止めきれないという状況が起きてしまうんですよね。
私は学生のころから、学校に適応できない子どもたちを受け入れる場所が必要であると強く感じていました。
その後、そういった思いを持ちながら、私は、大阪のフリースクールに勤務することになります。
そして、そこで居場所をなくした子どもたちが水を得た魚のように元気になっていく姿を見たんです。
子どもたちのなかには仲間ができ始め、先生たちとの信頼関係も築けて、どんどん元気になっていく様子をたくさん見れました。
もちろん、その施設が合わない子もいた。だから、施設も1カ所だけでなく、多種多様な施設が必要だと感じました。
例えば、当施設のような心理士が対応できるフリースクールであったり、もっと遊びの要素が強い、自然のなかで遊ぶようなフリースクールであったり、さまざまな特色をもった施設が複数あれば、そのなかから自分に合う居場所を選べますからね。
それから、それまでの経験を自分なりの形にしたいと思うようになり、鹿児島でNPO団体を立ち上げることになったんです。
自分のペースで過ごすことで自分らしさを取り戻す空間
ー「しののめフリースクール」では、どのような学習を指導しているのですか?
中村:学習内容は5教科だけでなく、ソーシャルスキルトレーニングでコミュニケーション力を高めるトレーニングをしたり、おしゃべり哲学カードで哲学を学んだりしていますね。
5教科においても、学習問題をクイズ形式にして取り組んだり、しりとりしながら漢字の練習をしたりしています。
漢字の学習にしても、「同じ漢字を20回書きましょう」といった指導はしません。
“楽しみながら考えていたら、自然と学習が身についていた”という形が理想ですね。
これからも、もっと遊びの要素を取り入れた学習を開拓していきたいと考えています。
ーゲームは学年ごとに実施するのですか?
中村:ゲームによっては、年齢層で分かれることもありますね。
本来年齢層に関わらず、みんなでゲームをおこなうのですが、小学生や中学生でやりたいことが異なるときや、体調が悪い子もいるので、無理に一緒にやらせることはありません。
体調がよくなかったり、睡眠が十分にとれていなかったりする子もいるので、みんなが騒いでいる横で、ひとりが寝ていることもあるんですよ。
コミュニケーションが苦手な子も安心!訪問ではないオンラインによる支援
ー今後取り入れる予定の“訪問ではないオンラインによる支援”のメリットを教えてください。
中村:オンラインを利用すれば、コミュニケーションが苦手な子も、実際に会わずに話すことができるのがメリットですね。
家に引きこもっている子どもは、人と会うのを避けているので、対面で会うのが難しい子が多いです。
そういった場合でも、例えばオンライン越しなら、子どもは顔を出さずに相手の顔を見ることができ、どんな人間かがわかるというメリットがあります。
ただ、もちろん対面のよさもあります。
私が大阪で体験した訪問支援は、直接会えなくても自宅を訪問し、保護者と話しただけで、子どもには直筆の置手紙をしたことがありました。
そして、それを2~3回繰り返したあとに会ってもらえた経験もあるんですね。
いずれにしても、子どもとコミュニケーションをとっていくなかで、ある程度関係性が築ければ、少しずつ顔を見せてもらえたり、フリースクールの様子を見に来てもらったり、可能性が広がります。
こういった経験を踏まえて、関係性を築くためのツールのひとつとして、オンラインを利用できたらと考えているんです。
ー施設内では、行事やイベントなどもおこなっているのですか?
中村:はい。毎月1回はイベントをおこなっています。
今年は、6月は雨の時期だからDVD鑑賞をしたり、7月は暑くなってきているからプールに行ったり、8月はカブトムシやクワガタを取りに自然のなかに足を運んだり、子どもたちの意見も取り入れつつ、支援員で決めておこないました。
9月以降はまだ未定ですが、横の繋がりも大切にしていきたいので、ほかのフリースクールの子どもたちとの交流会もいいかなと考えています。
本当は子どもたち主体でイベント内容を決めたいのですが、今はまだ自己主張するような子どもたちが少ないんですよね。
これからは、子どもたちが自分の意見をいえるよう支援しながら、さまざまなイベントを子ども主体で企画していきたいです。
子どもたちに寄り添う活動を通して“自分らしく生きてほしい”
ー今後どんな活動をしていきたいか、展望などをお聞かせください。
中村:“自分らしく生きていくこと”をもっとも大事にしていきたいので、そのための支援に力を入れていきたいですね。
そのためには、周りの大人も、子どもたちが生き生きとできるための視点が必要です。
そこでまず1つ目は、毎月1回実施している、宇部フロンティア大学の大石 英史教授による「臨床力養成講座」を継続しておこなっていきたいと思っています。
この臨床力養成講座というのは、臨床心理士や、公認心理師だけでなく、人の援助に携わっている方や、保護者や教員、子どもの成長を支援する立場の方たち、支援に関心をお持ちのすべての方たちを広く対象にしています。
そして、子どもたちと一緒に大人も成長していきたいという思いで講座を開催しているんですね。
具体的な内容は、当事者の話を傾聴する力、応答する力のほかにも、援助者が自分自身をケアする力などをつけていく講座となっています。
私たちは、常に臨床力を高めていくことが必要されています。
「子どもたちはなぜこういう行動をとるのか」「子どもたちの目には何が見えているのか」子どもたちのなかで、刻々と変化するものを理解する必要があるんです。
公式ホームページ内で講座を紹介しているので、興味のある方は、ぜひご覧になってください。
そして2つ目は、たくさんの方に不登校の子どもたちへの理解を広めると同時に、フリースクールや、適応指導教室など、さまざまな施設をコーディネートできるような活動もしていきたいということです。
現在鹿児島には、あらゆる場所にフリースクールができ始めていますが、どういった特徴のフリースクールがどこで立ち上がっているか、という情報は意外と少ないんです。
そこで、鹿児島のフリースクールや、適応指導教室など、一目で教室一覧が見られるような冊子をつくってほしいと、先日も教育委員会に申し出たところでした。
ニーズに沿った必要な支援が、必要な場所にニーズに沿って届けられるようなシステムもつくっていきたいと考えています。
また、今おこなっている取り組みとしては、ほかのフリースクールの方と協力して、3校合同説明会の開催を進めています。
ゆくゆくは、鹿児島全体で子どもたちをバックアップできる体制を整えていきたいですね。
3つ目は、オンラインの可能性を広げたいと思っています。
オンラインでの支援が可能になれば、鹿児島に縛られず、自由に活動ができると思うからです。
実際、東京の方からもオンラインでのカウンセリングの依頼を受けています。
これからの願いとしては、県を越えてさまざまな場所にサポートできる場が増えて、互いに連携し、私たちの支援が距離を超えて行き届くようなシステムができていくといいな、と思っていますね。
ー最後に、「しののめフリースクール」の支援を必要としている方や、支援員に興味を持っている読者に向けて、アピールポイントがあればお願いします。
中村:当施設の強みは、子どもたちの状態をよく見たうえで、丁寧な関わりを心がけているところです。
例えば、月1回の支援員ミーティングでは、支援内容を決め、共通認識をもって支援することを心がけているんですね。
また、同時に客観性を保つため、大学の先生に今の状況を見ていただいています。
俯瞰的な意見をもらい、随時修正していくことはとても大切なことだと思うからです。
私たちのような少人数であり、繊細な子どもたちが多い施設であると、「子どもたちに寄り添うとはどういうことなのか」を体感することができるので、心理臨床家や、教員経験者など、子どもに関わる仕事で大事な部分を学んでいただけるのではないかと思っています。
やはり学校という大きな組織のなかでは、きめ細かい対応が難しいので、子どもたちと身近に接することができる当施設で臨床力を高めることは、とても意義があることではないでしょうか。
ー本日は貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。
■取材協力:しののめフリースクール