子どもの習いごとといえば、学力や運動能力の向上を目的とし、自宅近辺の教室を探して通わせるケースが一般的です。
しかし、ときには少し遠くまで足を運んで、普段はできない自然体験をさせてみるのもいいかもしれません。
「自然体験は勉強やスポーツと同じくらい大切」と語るのは、森林保全に関わる活動をしているNPO法人「森林(もり)をつくろう」の理事長・佐藤 和歌子(さとう わかこ)さん。
今回は佐藤さんに、「森林をつくろう」での活動内容についてお話を伺いました。
子どもが自然に触れる機会が少ないと感じている方、自然体験を通じて子どもの豊かな心を育みたい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
林業の重要性や森林保全の現状を理解してほしい
ー本日はよろしくお願いします。まずはNPO法人「森林をつくろう」の設立の経緯と概要を教えてください。
佐藤 和歌子さん(以下、佐藤):「森林をつくろう」は今から17年前に設立したのですが、当時は「森林保全といえば植林」という動きが一般的でした。
森林を保全する上で植林はもちろん大事な活動ではあるのですが、世代を超えて豊かな森林を継続していくためには、植えた木を管理して育てていく活動も大事なんです。
山村で生活する人たちが、生計を立てながら森林を保全している現状を正確に伝えて、理解してもらいたいという思いが設立のきっかけでした。
みなさんが田舎に行ったときに目にする山は、国や公共団体の所有するものだけでなく、個人が財産として持ち、手入れしている山がほとんどなんです。
山村の生活者の方が林業として、汗水流して山の手入れをしているからこそ、日本にはこれだけ緑豊かな森林が綿々と続いています。
私たちは、一般の方々に向けて林業の重要性や森林保全のためには何が必要か?、森林保全の大切さなどを伝えるのを目的に、さまざまな活動をしています。
ー具体的にどのような活動をされているのでしょうか?
佐藤:木材利用に関する情報発信をしながら、日本の木のよさを広める活動をしています。
たとえば「間伐材(森林の成長過程で間引いた木を活用した木材)」の有効利用についての理解が深まってきてはいますが、まだまだ一般的とはいえない部分もあります。
私たちが木材利用について情報発信をすることで、みなさんに「日本の山で育った木材を使ってみよう」と思ってもらえるような活動を目指しています。
「みかん狩り」や「木工・竹細工教室」など自然体験事業を展開
ー子ども向けの自然体験事業をおこなわれている理由を教えてください。
佐藤:森林に関心を持つ方が少なくなっているのは、林業がみなさんや子どもの生活から少し遠い存在になっているのが原因では?と考えたからです。
自然体験を通じて、将来を担う子どもたちに、「今ある森林はおじいちゃんやおばあちゃん、それよりずっと前に生きていた人たちが、木を植えて育ててくれたおかげで存在しているんだよ」と伝えたいという思いがあります。
これまで森林を手入れしてきた人たちがいるからこそ、おいしい空気が吸えるし、おいしい水も飲めるし、緑豊かな森林を眺めながら生活ができるんですね。
それらのことを子どもたちに伝えていけば、山に足を運んだり、田舎での生活を選んだりと、林業が身近になるきっかけになると思っています。
ー自然体験事業について詳しく教えてください。
佐藤:たとえば「みかん狩り」では、山の所有者の方に協力を得ながら、山の中で育つみかんを自分たちで収穫します。
採れたみかんは持って帰って保護者の方に料理していただくんです。
山で採れる収穫物を通じて家族の交流を図ってもらうために、収穫済みのみかんをただあげるのではなく、子どもたちの手で収穫させることにこだわっています。
それから「木工教室や竹細工教室」では、こちらである程度加工した材料を提供しますが、何をつくるかは子どもたちに考えてもらうようにしています。
小さな子どもたちに大きい作品はつくれませんが、みんな自分なりに「この木や竹で何がつくれるだろう」と一生懸命考えて取り組むんですよ。
近頃は「危ないから」と、道具を使った工作の機会が減っていると思いますが、道具の使い方を間違えればケガをすることや、周りの人に配慮しながら取り組むことを学ぶのは大切です。
子どもたちがただ話を聞いて森林の大切さを学ぶのではなく、同世代の子たちと交流しながら体験することで、都会ではできない豊かな思い出づくりができるといいなと思っています。
子どもたちに「山は楽しいところ」と感じてほしい
ー自然体験事業を通じて子どもたちにどんなことを伝えたいですか?
佐藤:まずは子どもたちに山に足を運んでもらって、さまざまな体験をしながら、森林の重要性や木が育つ過程、森林を守ってくれている人の存在を知ってもらいたいです。
実は、日頃から森林に囲まれている田舎の子どもたちも、意外に山のことをあまり知らず、都会の子どもはもっと知らないと思います。
私たちは子どもたちに対して、「山を守るのは大変」「田舎で生活するのは大変」と頭ごなしには教えません。
子どもに限らず保護者の方にもですが、自然体験を通じて「山は楽しいところ」と感じてもらい、楽しい家族の思い出として持って帰ってもらえるように努めています。
山や森林は世の中の人にとって「手入れが行き届かない」「手入れをする後継者が不足している」「木材価格が低迷している」など、今は“お荷物”のような存在となってしまっていますが、私たちは山や森林にはいろいろな魅力があり、幸せを育む場所だと思っているんです。
ー保護者の方にも伝えたいことはありますか?
佐藤:保護者の方には、子どもたちに積極的にいろいろな自然体験をさせてあげてほしいですね。
どうしても大人は、子どもに何かをさせようと思うと「危ない」とか「ケガをするかもしれない」という意識が先に来てしまいがちです。
でも子どもたちは、自然体験のなかでさまざまなことに興味関心を持ちながら、「こうすると危ない」「周りに迷惑をかけてしまう」と、子どもたち自身で考えられるようになるんです。
子どもが森林の中に入るのは危険を伴うかもしれませんが、幼いうちに自然体験をしておくと、将来的に「物を大事にする気持ち」や「人を思いやる心」が出てくると感じています。
子どもたちが自然体験から帰ってきたら、ぜひ保護者の方から「今日は森林でどんなことをやったの?どんなものをつくったの?」と聞いてあげてほしいですね。
森林の恵みを気軽に知れる拠点をつくりたい
ー「森林をつくろう」でのイベントの開催予定があれば教えてください。
佐藤:年間を通して自然体験やイベントをおこなっていますが、新型コロナウイルスが感染拡大している状況から、子どもたちの健康と安全を第一に考えて現在は活動を休止しています。
来年以降、
新型コロナウイルスの影響が収まれば、木工教室や竹細工教室、薪割り体験やカレーづくりを楽しめる自然体験イベントを実施したいですね。
ー今後の展望についてもお聞かせください。
佐藤:森林保全の重要性はもちろんのこと、「山で暮らす人たちの生活の一部に“山を守る”ことがある」といろいろな人に知ってもらいたいと強く思っていますので、今後も私たちが主催するイベントを通して、子どもたちを中心に情報発信をしていけたらいいですね。
最終的には、イベント目的で山に来てもらうのではなく、みなさんが気軽に足を運んで森林の恵みを知れるような拠点をつくりたいと考えています。
その拠点では、訪れた方々が森林の恵みから加工したものを購入でき、「自然に囲まれてこういうことをやりたい」と林業に関する相談をできるようにしたいです。
ー最後に読者の方へひと言メッセージをお願いします。
佐藤:子どもたちにとって、日頃の勉強やスポーツは将来の夢を叶えるために大事なことです。
それと同じくらい、子どもたちに森林をはじめとする自然の体験を通じて、豊かな心を育むことに関心を持ってもらいたいと思っています。
今は望めば何でも簡単に手に入る世の中ですが、子どものころに「自分でつくる」、あるいは「自分で行動して手に入れる」体験をすることで、人に対する思いやりや自分で何かを得る幸せを実感できるようになります。
その幸せは、普段から感じている幸せよりも大きいような気がするんですよね。
来年以降、「森林をつくろう」で自然体験のイベントを開催できた際はぜひご家族で足を運んでいただき、心が豊かな生活を送るための自然体験をしてくださいね!
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:NPO法人森林をつくろう