都会に暮らしていると、自分たちの食べているお米や野菜、お肉がどのようにしてつくられているのかを実感しづらいですよね。
お店に行けばすでにカットされたお肉が売られており、命をいただく重みや意味を考えることが難しいのも仕方ないのかもしれません。
今回は、そんな子どもたちに食べ物や自然の大切さを教える活動をおこなう「山村塾」理事長の小森 耕太さんにお話を伺いました。
親子で夢中になってしまうという、農業や林業を本格的に体験できる取り組みは必見です。
子どもに食育を学ばせたい方、家族そろって自然と深く触れあえる体験をお探しの方は、ぜひご覧ください。
農山村の自然を守る!農家が設立した団体「山村塾」とは
ー本日はよろしくお願いいたします。初めに、「山村塾」の設立経緯や、活動内容を教えてください。
小森 耕太様(以下、小森):「山村塾」は、都市で生活をしている都市住民と、農山村の住民が一緒になり、農作業や山仕事を楽しみながらおこなっている団体です。
また、それらの活動を通じて、農山村の自然環境、棚田や茶畑、山林といった自然豊かな風景を守り、育んでいくことを目指しています。
山村塾は、1994年に福岡県の八女市黒木町・笠原地区から活動をスタートしました。
もともとは農家2軒と、都市住民側1軒の3家族で話が盛り上がったことが、活動を始めたきっかけで、当時はまだとても小さい団体でした。
山村塾は設立から30年近く経ちますが、活動内容や目的は設立当初から大きく変わりません。
棚田での米づくりや、森の手入れを都市に住んでいる方たちにも参加してもらいたい。そして、同じ目線で一緒に汗を流したり、一緒にご飯を食べたり、交流ができる活動をしたい、という思いで活動しています。
このように、農業や農林業を営んでいる農家が中心となって設立した団体というのは、少し珍しいかもしれませんね。
“子ども以上に大人も夢中になる”農林作業とおいしいご飯の魅力
ー山村塾でおこなっているプロジェクトについて、詳しく教えてください。
小森:山村塾のプロジェクトは年々拡大していて、長期間の合宿プロジェクトや、災害支援など、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。
なかでもみなさんに知っていただきたいのは、設立当初から活動の柱としておこなっている「稲作コース」と「山林コース」のふたつです。
これらのコースは、設立メンバーである2軒の農家・農林家がそれぞれ受け入れを担当していて、稲作コースを担当するのが椿原ファミリー、山林コースを担当するのが宮園ファミリーとなっています。
ー本当に地元の農家・農林家の方たちのもとで稲作や山林を学べるんですね。
小森:そうですね。週末になると2軒の農家・農林家ファミリーのもとに、福岡近郊からたくさんの方が訪れます。
そうして集まった方たちで、棚田で米づくりなどの農作業をしたり、山に入って森林整備の作業をしたり、みんなで一緒になって汗を流すんです。
お昼ご飯も、現地で栽培した農産物や、お米を使った農家の手づくりご飯。一緒に昼食づくりをすることもあります。
そうやってみんなで過ごしていると、血はつながっていなくてもまるで家族のように感じられる瞬間がありますね。
農家のおじいちゃん、おばあちゃんたちと一緒に、農作業や山仕事をして、集まったたくさんの家族たちといろいろな話をして同じ時間を過ごす。
週末に里帰りをして1日過ごして、また日常に帰っていく感覚。そんな気分で過ごせる体験を私たちは目指しています。
ちなみに、これらのコースは年間を通してそれぞれ10回程度活動をするため、年会費という形で料金をいただいています。
そのため、料金がちょっと高いなと感じられる方もいるかもしれません。
ただ、コースに参加された方には、農家の育てた無農薬「合鴨米」や、しいたけ、お茶といった農産物をお送りしています。
年会費のなかには、これら農産物の費用も含まれていて、「農産物を買い、支えることで環境保全型の農林業を応援しよう」という仕組みになっているんです。
ー参加される方は、親子や家族連れの方が多いのでしょうか?
小森:もちろん、ひとりで参加される方もいますが、特に稲作コースは家族連れでの利用が多く見られます。
「子どもたちに食べ物の大切さや、自然の楽しさを体験してほしい」と願う親御さんが山村塾に参加してくださっているようです。
ただ、稲作コースや山林コースは、活動を重ねるうちに、子どもよりも大人のほうが農作業や山の仕事にはまり込んでしまう傾向がありますね。
例えば、子どもたちは1時間ぐらい作業をしたあと、虫を捕まえたり、カニを追いかけたり、自然のなかでの遊びを満喫していることが多いんです。
ところが大人は、農家の方と一緒に汗を流すことに喜びを感じて、子どもたちが遊んでいる間もせっせと作業にあたっている姿をよく見かけます。
それこそ、2年、3年と継続して会員になられているご家族のなかには、親御さんだけで参加される方もいますよ。
子どもがきっかけで参加したけれど、「子どもたちは中学生や高校生になり、部活や勉強が忙しくて来られないから」と。
農家が育てた旬の野菜や食材を使ったお昼ご飯が本当においしいので、「ご飯を食べにきました」といらっしゃる方もいるくらいです。
体験を通して命をいただく意味を考える
ー山村塾で開催予定のイベントや、活動があれば教えてください。
小森:直近で確定しているのは、10月9日(土)と10日(日)におこなう、稲作コースの「稲刈り」です。
山林コースは、10月17日(日)に「枝打ち」という森林整備の活動をおこないます。
そのあとには、10月23日(土)と24日(日)に稲作コースの「鴨さばき」がありますが、こちらは稲作を手伝ってくれた合鴨を捌くという行事なので、初心者だとハードかもしれませんね。
そのため、はじめは稲刈りからの参加がおすすめです。
詳しいイベントの情報は、公式ホームページからご確認ください。
ー鴨さばきにはお子さまも参加されるのでしょうか?
小森:はい。鴨を絞めるところから、ご家族でやっていただいています。
大きく育った稲と鴨の両方を収穫し、おいしくいただくというのがこの稲作コースなんですね。
合鴨農法でおいしくて安全なお米を収穫し続けるためには、お米だけでなく鴨も毎年いただく必要があるのです。
稲作コースではそういった説明や、命をいただくことの大切さも含めて、「10月には鴨もいただきましょうね」と話をしています。
“命をいただいて生きる”という意味が込められている鴨さばきだからこそ、さばくことの怖さ以上に得られるものがあると考えています。
都市と農山村の垣根をなくした先に願うもの
ー山村塾がどういう団体を目指しているかなど、展望をお聞かせください。
小森:山村塾では、都市と農山村の垣根をできるだけなくしていきたいと考えています。
都会で長く生活していると、農山村の日常や苦労はもちろん、楽しさもわからない方がほとんどかと思います。
そのため、都会で暮らしている方々には、定期的に農山村に足を運んでもらい、農林業に携わることで、その楽しさや課題を知ってもらいたいですね。
また、農山村で暮らす方たちも、都会の方たちとの交流を通して、仕事の目標や、やりがいを改めて感じてもらいたいと思っています。
そして、一緒に交流しあいながら、環境にやさしくて持続的な暮らしを続けていけるよう、取り組んでいきたいです。
そのような互いの理解こそが、山村の環境を守ることに繋がるのではないでしょうか。
ー最後に、読者に向けてメッセージをお願いいたします。
小森:山村塾には、ぜひとも家族で参加して、お子さんと一緒に汗を流す“家族共有の体験”をしてほしいと思っています。
「家族で一緒に農作業をがんばった」という体験は、子どもたちにとって今後くり返し思い出すであろう、かけがえのない時間になると思うからです。
また、中学・高校・大学生の方々には、ボランティアも募集しています。
現在は、コロナの影響でなかなか実施が難しいのですが、例年であれば海外からボランティアを呼んでいるんですよ。
ボランティアは、1か月や3か月の長期でおこなうため、国際交流を兼ねて参加していただければと思います。
農作業や自炊を通して交流するため、言葉や文化が違っても打ち解けやすいのがいいところですよね。
それから、山村塾には笠原棚田米プロジェクトといって、お米の販売を通して、棚田などの農山村景観を守っていこうという取り組みをおこなっています。
昨今はコロナの影響で移動が難しい方や、そうでなくても遠方でなかなか足を運べない方もいらっしゃると思います。
そういった場合には、山村塾でつくっている安心安全な無農薬のお米や、棚田米などの農産物を購入していただけるとうれしいです。
ご協力いただけると大変ありがたいので、ぜひよろしくお願いします。
ー本日はとても貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:NPO法人 山村塾