「学校に行きたくても行けない」という悩みを抱えている不登校の子どもは、現在数多く存在するのが現実です。
文部科学省の問題行動・不登校調査によると、2019年度に不登校が理由で小中学校を30日以上欠席した児童生徒は18万人以上で、過去最多を更新しています。
そんな不登校に苦しむ子どもと、その家族を支援すべく立ち上がったのが、熊本県を拠点とするNPO法人「フリースクール地球子屋(てらこや)」です。
「フリースクール地球子屋」は20年以上の活動実績をもち、数多くの不登校の子どもを支援してきました。
今回はNPO法人「フリースクール地球子屋」代表の加藤 千尋(かとう ちひろ)さんに、どのような活動をおこない、子どもたちとその家族を支えてきたかについてお話を伺いました。
「フリースクール地球子屋」は不登校に悩む保護者同士の学習会から始まった
-本日はよろしくお願いいたします。まず、NPO法人「フリースクール地球子屋」の設立の経緯について教えていただけますでしょうか。
加藤 千尋さん(以下、加藤):「不登校の問題」には、不登校の子どもを持つ保護者の方が家で子どもの対応をするだけでは子どもがなかなか元気にならず、学校に戻れないという悩みがありました。
そんな不登校の子どもを持つ保護者の方が集まり、学校に行けない子どもたちのための学習会をはじめたのがきっかけでしたね。
学習会を通して、保護者の方がひとりで抱えてしまっていた悩みをほかの人と打ち明けられるようになり、保護者の心にゆとりができて、
不登校の答えが“学校に戻すこと”ではなく、まずは“自分の子どもにちゃんと向き合うこと”が大事なんだと気づけるようになるんですね。
子どもたちも「いままでとは接し方が違うな」とちゃんと変化が伝わり元気になっていって、「やっぱり家にいると退屈」だとか、「友だちがほしい」という、学校へ戻るための次の段階に移っていくわけです。
そして、保護者の方と同じように、不登校という同じ経験をしてきた子どもたちが集まれて、友達になったり遊んだりできるフリースペースとして、「フリースクール地球子屋」は始まりました。
気軽な相談窓口としての「不登校・ひきこもり相談支援センター」
-「フリースクール地球子屋」と「不登校・ひきこもり相談支援センター」の2つの名前があるのはどうしてなのでしょうか?
加藤:不登校の子どもたちのただの居場所ではなく、勉強や人間関係など、いろいろなことを子どもたちに学んでほしいという思いから「フリースクール」という表現にしました。
日本では「フリースクール」という言葉は不登校や引きこもりの子どものための施設という意味合いが強く、保護者の方が見つけやすくなるんです。
しかし、“フリースクールに通っている”=“不登校”というレッテルを張られたくないと考える子どももいます。
そこで、子どもと保護者の気持ちを考えて、「不登校・ひきこもり相談支援センター」という、フリースクールに通う前の気軽な相談の窓口を2019年に開設しました。
気軽な相談ができる「不登校・ひきこもり相談支援センター」という窓口と、実際に子どもを受け入れる「フリースクール地球子屋」という入り口の、2つの入り口の名前として使い分けています。
「休み」と「遊び」が学びへの最初の一歩
-「フリースクール地球子屋」では、子どもたちはどのような活動をするのでしょうか?
加藤:はじめは何もしなくていいと思っています。
最初から「なにかしましょう」ではなく、まずは「なにもしない」ことを認めてあげることが大切ですね。
なぜなら、不登校の子どもの学校に行けない大まかな原因は「疲労」で、なにもしたくない状態なんです。
なにもしなくてもいいを認めてあげることで、子どもたちは安心できて、元気や健康の回復につながります。
元気になった子どもの意見にしっかりと大人が応えてあげて、次の目標に進むためのきっかけづくりをしてあげるのも重要ですね。
子どもが心身ともに疲労から回復したら、3つの具体的な活動を進めていきます。
まず1つめの活動が、子どもと一緒に自分自身の企画書や計画表をつくってもらう「ミーティング」です。
このミーティングで考えた企画や計画をもとに、2つめと3つめの活動である「ゼミナール」と「プロジェクト」に分かれて進めていきます。
「ゼミナール」は、大人や子ども同士でもいいので知識のある人から教えてもらいながら、英会話や実験などの計画を自分たちでチャレンジしつつも、わからないところは教えてもらうというスタイルをとっています。
「プロジェクト」は、ひとり、もしくは複数人で、自分たちの力だけで自由に進めていくもので、誰かに教えてもらうことがない代わりに、ゲーム大会などの自由度の高い企画を自分で考え進めていくことができます。
この「ミーティング」「ゼミナール」「プロジェクト」の3つが、「フリースクール地球子屋」の基本的な活動となります。
子どもたちが立てた計画や企画の中身が結構遊びに近い内容が多かったとしても、それでもいいと思っています。
なぜなら、この“遊び”こそが、不登校の子どものバラバラになってしまった「頭」と「心」や「体」を結びつけてくれるからです。
子どもは、頭では学校に行かなきゃいけないとやっぱり思っているんですね。
でも、心や体はもう無理だとなってしまっていて、ひとりの自分としての統一感やアイデンティティがなくなってしまっている状態です。
失った統一感やアイデンティティを再確認するのに、頭も心も体もひとつになって夢中になれる“遊び”が大切なんです。
この遊びの繰り返しが、自分を取り戻していく上で大事なことだと思っているので、子どもたちがなにをしたいかを一番重要視していますね。
-遊びを大切にするなかで、学習の遅れを気にする子どももいるのではないでしょうか?
加藤:いまは単純に5教科の学習ができればいいというわけではなく、集中力やコミュニケーション能力などが重視されていますよね。
「フリースクール地球子屋」では学校のテストで測れないような、集中力や言語能力、論理的思考など、学習のための基礎的な力をまずは身につけられるようにしています。
学習のための基礎的な力を身につけることによって、自分が得意な分野がわかり、自分に合った学習方法ができるようになります。
子どもたちは学習が遅れてる部分があれば自発的に取り返そうとしますし、進学したいとなれば自分で目標を設定します。
最終的に、自分で進学先を決めた子どもたちはほぼみんな希望した進学先へ行くことができていますね。
学校に行けないことを悪いことだとは思ってほしくない
-不登校の子どもたちが成長するには、どういった支援が一番大切なのでしょうか?
加藤:保護者の方が、子どもの不登校の理由を理解することがとても大事だと思っています。
しかし、家庭は学校ではないので、子どもの成長に対してどうやって育てればいいのかわからないのが大半です。
「フリースクール地球子屋」では、ご家庭を支援することに一番力を入れています。
支援の1つめのステップは、子どもが健康であるかを確かめます。2割くらいの子どもは何らかの病気を抱えている場合がありますね。
2つめのステップが、子どもが病気ではなく疲労の場合、家でくつろげるように、家を安心できる場所にすることです。
子どもが家庭のなかで、安心で安全に過ごせるようになると、次第に親子間でコミュニケーションもとれるようになり、子どもの成長につながっていきます。
-不登校やひきこもりに特化した施設は日本にまだまだ少ないように感じますが、「フリースクール地球子屋」ではどのように対応されているのでしょうか?
加藤:
日本には約18万人の不登校の子どもがいるなかで、フリースクールのような支援を受けられている子どもは全体の5%程度です。
結果的に、現状では各家庭のご家族が対応していかざるをえないということになるんです。
「フリースクール地球子屋」では、私たちがご家庭に伺う「訪問支援」、保護者の相談にのる「定期相談」や「個別相談」、子どもについての考え方、親ができることを伝える「不登校 学習会」、不登校の悩み、進学・就職などをテーマとして交流相談ができる「ともに育つ親の会」などをおこない、フリースクールに通えない家庭にも対応しています。
-最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
加藤:不登校になると子どもは「なんで学校に行けないんだろう」、「どうして自分はほかの子どもたちと同じようなことができないんだろう」とすごく自分を責めて悩みます。
同時に保護者の方も「育て方が悪かったんじゃないのか」、「自分に責任があるんじゃないか」と、特にお母さんは責任を感じやすいです。
でも、そういう問題ではないということを理解してください。
そもそも学校のあり方そのものに問題がある可能性や、もっといえば社会のなかに「不登校はダメなことなんだ」「悪いことなんだ」という価値観があるのがいけないことなのかもしれません。
不登校の子どもが育つ場として、一番いい方法が学校ではなかったというだけの話です。
保護者の方には、不登校の子どもたちを親身になって一緒に考えてくれる人たちが世の中にはたくさんいるということを、まずは気づいてほしいと思っています。
人生100年時代といわれる世の中で、小学校から大学までの約20年ぐらいをみんなと違うことをやっていても、20歳以降はみんなと同じように社会に出ていくわけなので、そのなかでうまくやっていければ全然問題ないです。
だから、学校に行けないことを悪いことだとは思ってほしくないですね。
-本日は貴重なお話をしていただきまして、ありがとうございました!
■取材協力:フリースクール地球子屋