子どもに勉強の好き嫌いはつきものだと思いますが、特に子どもが苦手だと思う教科が、理数系ではないでしょうか。
今回は、そんな子どもたちでも理数系の学びが楽しくなる「ものづくり体験」を提供している、NPO法人「HITOプロジェクト」をご紹介します。
「HITOプロジェクト」は、熊本県の各地でロボット・プログラミング体験や、国際ロボコンの熊本大会の運営にも携わっている団体です。
NPO法人「HITOプロジェクト」理事長の前原 栄輔(まえはら えいすけ)さんに、プログラミングに関するユニークなイベントや学習のきっかけづくりについてお話を伺いました。
子どもから大人までプログラミングに興味を持ってもらうために
ー本日はよろしくお願いいたします。まず、「HITOプロジェクト」を設立された目的について教えてください。
前原 栄輔さん(以下、前原):近年では社会の情報化が進み、変化に対応できる力の育成として、プログラミング教育が注目をされるようになりました。
また、学習を通して得られる論理的思考力・課題解決能力なども重視され始めましたよね。
2007年の当時は、プログラミング教育がまだ一般的ではなかったんです。
そこで、子どもたちがプログラミングについて学ぶことができる場の提供と、工学分野に興味を持ってもらいたいという目的のために、「HITOプロジェクト」を設立しました。
私たちの団体は設立当初からプログラミング教育によって学べる力を大事にしていて、子どもたちに興味や関心を持ってもらうとともに、これからの社会に求められる能力も育成していきたいと考えています。
ー具体的にはどのような活動をされているのでしょうか?
前原:プログラミング体験を各地で開催し、子どもたちの学びのきっかけづくりをサポートしています。
設立当初は、子どもの学力低下や工学分野への進学率の減少が取り上げられていましたが、子どもたちがロボットやプログラミングに興味を示す姿勢は、昔からそれほど変わっていないんです。
基本的に子どもたちは初めて見たものでもとりあえず触ってみたりするので、工学分野への興味の薄れを解消するために、子どもたちがロボットやプログラミングに触れる機会を提供してあげることが大事だと考えました。
また、子どもたちよりも保護者の方のほうが、ロボットやプログラミングに対して抵抗が大きかったのではないでしょうか。
イベントを通して、「うちの子どもがこんなに夢中になって取り組んでいる姿を初めてみました」という声をいただき、保護者の方も実際に子どもが楽しく学ぶ姿を見たことで有用性を感じていただいたと思います。
ー保護者の方の意識が変わったきっかけには、どのようなことがあるのでしょうか?
前原:いまでもプログラミングなどの工学分野が不得意と感じる保護者の方は多い印象ですが、パソコンやスマートフォンが普及したことで、コンピューターへの苦手意識は昔に比べて和らいだと思います。
また、学校でプログラミング教育が始まったことも、大きなきっかけのひとつでしょう。
プログラミング教育では、実際にプログラミングを小学校で学ぶわけではなく、あくまでも学校教育に「プログラミング的な考え方」を取り入れようという教育内容なのですが、子どもはもちろん保護者の方にもインパクトのある教育方針だったと思いますね。
身近なレゴブロックを使って親しみやすいプログラミング体験
ープログラミング体験の内容について、詳しく教えていただけますでしょうか。
前原:プログラミング体験では、「レゴロボ」と「Miniロボ」という、ブロックパーツを組み合わせてつくる2つのロボット教材を使用しています。
1つめの「レゴロボ」 は Mindstorms(マインドストーム)という、子どもたちに馴染みのあるレゴ社製のもので、ロボットやプログラミング教材としては歴史が長いです。
レゴブロックは、つくって壊しての作業がしやすいなど、子どもたちが簡単に扱えるところも大事なポイントです。
また、つくったものを発表できるロボット大会もこの教材を使用しているものがあるので、幅広く活用できるんです。
2つめの「Miniロボ」はレゴ社製ではないのですが、レゴブロックとの互換性があるものになっていますね。
ー「レゴロボ」と「Miniロボ」を使用した体験活動では、それぞれどんな違いあるのでしょう?
前原:「レゴロボ」を使用したプログラミング体験は、設立当初からメインでおこなっているプログラミング体験活動です。
モーターやセンサーなどの本体部品がバラバラになっており、一からを組み立てるところからスタートします。
レゴブロックを組み合わせて、車やロボットなどのいろいろな仕組みを再現したり、ロボットでよく使われる「ライントレース」という制御プログラムを通して、プログラミングの学習をおこなっています。
一方、「Miniロボ」を使用したプログラミング体験は、機能がシンプルなので、小さくて扱いやすく、小学校1・2年生などの低学年向けの体験活動になっています。
「Miniロボ」は最初から本体が組み上がっている状態なので、すぐに動かすところから始められますね。
シンプルな機能ながら、ギアを組み合わせた仕組みがつくれたり、基本的な処理の構造を学習できるので、十分に学ぶことができます。
また、「Miniロボ」はプログラミングアプリが日本語化されていませんが、子どもが英単語になじむいい機会にもなるのではと思います。
ー「レゴロボ」と「Miniロボ」で共通しているのはどんなところなのでしょうか?
前原:どちらも共通して大切にしていることは「楽しいことが学びになる」という考えです。
遊び感覚で課題にチャレンジしてもらい、トライ&エラーをくり返しながら、子どもたちに自発的に取り組んでもらえるように努めていますね。
「HITOプロジェクト」のYouTubeチャンネルではそれぞれの活動の様子やロボットをアップしているので、そちらもぜひ見ていただければと思います。
身近にプログラミングが体験できる多くのイベントを開催
ー「HITOプロジェクト」ではどのようなイベントをおこなっているのでしょうか?
前原:毎年、国と民間が協力して子どもの体験・読書活動などを支援している「子どもゆめ基金」より助成をいただいて、イベントを開催しています。
今年は7月〜8月と1月〜2月に、ロボット・プログラミングだけでなく「Hour of Code」というロボットを使わないプログラミング体験イベントを開催予定です。
そのほかにも不定期で「1Day体験プログラム」のイベントを実施しています。
詳しく知りたい方は、「HITOプロジェクト」公式サイトを参考にしていただけますと幸いです。
ー新型コロナウイルスへの感染対策はどのようにされているのでしょうか?
前原:対策については、必ずマスク着用、参加前に消毒をしていただく、こまめな換気をおこなうなどの配慮をしています。
また、以前は大学と共同で1回の体験で約40人ほど参加いただくイベントを開催していましたが、コロナ禍のため、いまは12人までと人数制限をさせていただいています。
そのため、子どもと一緒に参加したい保護者の方や、兄弟姉妹で揃って見学したいといった場合、ご遠慮することがあるかもしれません。
興味を広げることで夢中になれるプログラミング教育
ー今後の目標や、展望についてお話いただけますでしょうか。
前原:私たちは青少年国際ロボコン「WRO(World Robot Olympiad)」の熊本大会の開催にも携わっています。
目標のひとつは、その大会を通して子どもたちが熊本から世界に羽ばたいていけるような未来をつくることですね。
大会には、小学生から高校生までの子どもが参加するなか、審査部門で小学生が2度日本一になったこともあり、より一層子どもたちが結果を残せるようサポートしていきたいと思っています。
人前で発表することに抵抗を感じる子どももいますが、何かしらの目標やアウトプットする場があったほうが、子どもは成長するものです。
もっとレベルアップして欲しいという気持ちから設けている大会なので、難しいことにもめげず、どんどんチャレンジしていっていただきたいですね。
子どもたちがプログラミングを学び、将来さまざまな分野で活躍し、人助けや次世代の人材育成をしたりと、豊かな社会を担うような「次につなぐ」人材を育成していきたいと思います。
ー最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いいたいます。
前原:去年は小学校、今年は中学校、来年には高校でも、プログラミングが必修化される流れがきています。
学校教育のなかにも組み込まれてきているので、プログラミングがキャリア形成のために必要になるということは、お伝えしておきたいですね。
ただ、本来プログラミングなどの分野は、学力の善し悪しだけで差がつくものではありません。
子どもが、どれだけ興味を持てたかで、吸収する知識量が変わってくるものだと思うんです。
そのため、「体験してみること」は大事ですが、「必ずしもすべての子どもが習得しなければならないものではない」と私は考えています。
学校教育に組み込まれ、やらざるを得なくなる状況ではありますが、プログラミング分野を好きになった子どもには、キャリア形成のためとかではなく、純粋にどんどんのめり込んでいって欲しいなと思いますね。
ー本日は貴重なお話をしていただきありがとうございました。
取材協力:HITOプロジェクト