昭和46年に創立し、2021年4月に50周年の節目を迎えた独立行政法人国立青少年教育振興機構「国立赤城青少年交流の家」。
群馬県・赤城山南麓に広がる黒松の森に囲まれた環境のなかで、登山や野外炊事などさまざまなプログラムを通して、子どもに自然体験と交流の場を提供しています。
今回は、「国立赤城青少年交流の家」の所長の松村 純子(まつむら じゅんこ)さんと主幹兼事業推進係長の福岡 公平(ふくおか こうへい)さんに、施設やプログラム内容、今後のイベント予定などについて詳しくお話しを伺いました。
子どもに自然と触れ合える体験活動をさせたいと考えている方はぜひご覧ください。
標高530メートルにある自然豊かな施設
―本日はよろしくお願いいたします。まず、「国立赤城青少年交流の家」を設立した経緯を教えてください。
松村 純子さん(以下、松村):「国立赤城青少年交流の家」は、昭和46年に全国で7番目となる国立青年の家として、「国立赤城青年の家」という名前で開所しました。
その後、平成18年の組織改編に伴い、独立行政法人国立青少年機構へ移行し、「国立赤城青少年交流の家」と改名しました。
活動では国の喫緊の課題に対応する事業の企画とともに、地元群馬県に貢献する施設運営をおこなっています。
―「国立赤城青少年交流の家」はどのような施設なのでしょうか?
松村:「国立赤城青少年交流の家」は、群馬県の“上毛三山”のひとつである赤城山南麓の標高530メートルの場所に位置しているため、とても自然豊かな施設です。
「本物体験、学びの宝庫、赤城」というキャッチフレーズのもと、幼児から大学生まで発達段階に即した自然体験プログラムを展開しています。
施設内にはキャンプ場はもちろん、スポーツ活動など団体で利用できる体育館やグラウンド、柔道場・剣道場なども用意してあります。
また、教室として利用できる研修室が大小8部屋あるので、大学のゼミ合宿や高校生の勉強合宿など、ニーズに合わせた利用が可能です。
そのほかにも、“群馬県からっ風「体験の風をおこそう」運動”という活動を推進しています。
―群馬県からっ風「体験の風をおこそう」運動では、具体的にどのような活動をしているのでしょうか?
松村:国立青少年教育振興機構の調査で、自然体験や生活体験が豊富な子どもほど、「自立的行動習慣が身についている」ということが明らかになりました。
そこで、子どもの自立的行動習慣を育成するために、群馬県内の青年教育施設と連携して、キャンプやボランティア活動などさまざまな体験活動を実施しています。
また、毎年10月を「体験の風をおこそう推進月間」と定め、体験活動の重要性を発信しています。
自然を満喫できる豊富な体験プログラムを提供
―「国立赤城青少年交流の家」では、どのような活動プログラムがあるのでしょうか?
福岡 公平さん(以下、福岡):まず1つめは、「あかぎ山登山プログラム」です。実は、赤城山とは黒檜山、駒ケ岳、地蔵岳、長七郎山などの7つの山々の総称のことなんです。
それぞれの山ごとに標高や登山ルートが異なり、距離や体力に合わせてコースを選ぶことができます。
そのため、幼児から大人まで、さまざまな方におすすめできるプログラム内容です。
2つめは、「野外炊事」ですね。恐らく誰もが、小学生のころに林間学校などでカレーを作った経験があるのではないでしょうか。
釜戸班や調理班など一人ひとりが役割をもち、周りと協力してひとつのものを作りあげるカレー作りは、団体活動ではとても大切なプログラムだと思っています。
プログラムでは「ピザ作り」や「うどん打ち」などのメニューも用意していますが、まずはカレー作りに挑戦していただきたいですね。
―施設を塾や予備校関係の団体が利用することはありますか?
福岡:もちろんです。今年の夏もご予約をいただいています。
英語で野外活動をするイングリッシュキャンプ目的や、教室で勉強合宿をおこなう塾の団体など、利用目的もさまざまです。
群馬県内の施設や団体と協力したイベントを実施
―親子や家族連れを対象としたイベントなどは実施しているのでしょうか?
福岡:2021年10月9日・10日に、1泊2日で開催予定の家族向けイベント「赤城フェスタ2021」があります。
イベントでは、1日目は家族で大きなお風呂に入ったり、バイキング形式のごはんを食べてゆっくり過ごしてもらい、2日目はさまざまなブースで体験活動を満喫していただきたいと考えています。
昨年はコロナ禍でしたが、感染症予防対策をしっかりおこない、地震の揺れを体験できる「起震車」ブースや、空気の入った大きな恐竜のなかで跳ねて遊べるアトラクション「ふわふわ」ブースなどを用意し、大盛況のイベントとなりました。
今年も、施設だけではなく群馬県内の多くの団体と協力してイベントを成功させたいですね。
そのほかにも、未就学児を対象とした「親子キャンプ」や「育パパ&育ママ応援ファミリーキャンプ」などのイベントがあります。
「育パパ&育ママ応援ファミリーキャンプ」は、“東武鉄道とコラボ”していて、東京から東武鉄道を利用して赤城まで来てもらい、登山や焚き火体験などを通して自然を満喫するイベントです。
東京から施設まで、「特急りょうもう号」とバスを乗り継いで約3時間ちょっとで到着します。
このイベントで初めて自然体験をされた方がリピーターになり、長期休暇などで何度も遊びに来てくれることがあるんです。
おかげで、首都圏の方に「国立赤城青少年交流の家」を知ってもらうよいきっかけになったのかもしれません。
体験活動で学ぶことができる大切なこと
―体験活動では、どのようなことを大切にしているのでしょうか?
福岡:施設では、参加してもらった団体や家族に対して、「あいさつ・かかわり・きづき」の3つを大切にしてほしいとお伝えしています。
まず、施設には団体や家族、友人連れといったようにさまざまな人が訪れます。多くの人が関わり合う交流の場の第一歩として、全員で気持ちよく過ごしてもらうために、「あいさつ」が大切なことの1つめです。
次に、体験活動を一緒におこなう仲間や講師との関わり、自然との関わりなど、体験活動を通じて自分自身が向き合ったものを大切にしてほしいという願いを込めて「かかわり」が2つめです。
そして、多くの体験活動をおこなってみて、人それぞれ気づいたことや感じたことがあると思います。それを参加者同士で話し合って共有し、さまざまな発見をしてみてほしいという気持ちを込めて「きづき」が3つめとなっています。
それぞれの頭文字をとると「あかぎ」となり、私たちが大切にしていることを名前とも結びつけています。
職員一人ひとりが意識したSDGsへの取り組み
―今後の展望について教えていただけますでしょうか?
福岡:活動では、「幼児」「防災」「SDGs」の3つがポイントになると考えています。
まず施設では、幼児から青年層までをターゲットにした体験活動を提供しています。
現在は小・中学生に多く利用していただいているのですが、幼児の子どもたちにもさまざまな体験活動をしてほしいです。
その思いから、2019年より「ササビー広場」という幼児向けの運動遊び施設をオープンし、子どもたちの受け入れを開始しました。
また、防災については、今年度から「防災キャンプ」を実施します。
中学生を対象とした募集型のイベントになるのですが、地域の防災リーダーを育成するという趣旨で8月に実施予定です。
前橋市の防災危機管理課の協力を得ながら、地域を守っていけるリーダーを育成できるような事業にしたいですね。
そして最後は、「SDGs(持続可能な開発目標)への取り組み」です。
「国立赤城青少年交流の家」では、職員一人ひとりがSDGs宣言というものをしています。
たとえば、子どもたちに指導する職員は「赤城の自然のよさを伝えたい」という宣言をし、事務管理系の職員は「節電・節水を心がけて施設の経費を少しでも減らす」などの目標を宣言しているんです。
施設としてSDGsの事業に取り組むということではなく、“業務のなかで職員一人ひとりが意識しながらやっていこう”と考えています。
公式YouTubeチャンネル「ササビーチャンネル 」で、私たちのSDGs宣言を公開していますので、もしよろしければご覧ください。
―最後に、読者にむけてメッセージをお願いいたします。
福岡:多くの人がコロナ禍でなかなか遠出ができない状況で、「国立赤城青少年交流の家」でも林間学校がキャンセルになったりすることが約2年間続いています。
それでも、私たちは体験活動が大切であるという思いを持ち、体験活動の火を絶やさないように何とか頑張っている現状です。
そのための活動の手段として、YouTubeに「ササビーチャンネル」をつくり、さまざまな動画を配信しています。
この活動は子どもたちが1人1台端末をもち学習する「GIGAスクール構想」にも対応しているでしょう。
学校の事前学習でササビーチャンネルを観ていただき、実際に施設で体験をする。そして、気づきを持ち帰って振り返りをするということができます。
そのほかにも、「Instagram」を今年から始めました。
「国立赤城青少年交流の家」のマスコットキャラクターであるササビー目線で、施設内のおもしろいものを紹介するというコンセプトで運用しています。
さまざまなSNSを活用しながら、施設のPR活動や赤城のよさを発信していきたいです。
もちろん、一番には「赤城に来て本物体験をしてほしい」という思いがあります。
特別な活動をする必要はなく、体験活動を通して「あいさつ・かかわり・きづき」を大切にしてもらいたいと考えています。
施設は家族2人から利用できるので、コロナ禍のいまだからこそ気軽に利用して赤城の自然にどっぷり浸かってほしいです。
皆さんのご利用をお待ちしております。
―本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:国立赤城青少年交流の家