2003年5月に環境保全に取り組む任意団体としてスタートした「森のライフスタイル研究所」。
設立当初は、木質バイオマスの利用推進に力を注いでいましたが、2009年より、人・企業・行政と協力しながら「森づくり活動」を展開するように。
現在では、「子どもの野菜畑」や「ツリークライミング」といったユーモアのある野外活動を提供し、人と自然を繋ぐための架け橋になれるような活動をおこなっています。
今回は、特定非営利活動法人「森のライフスタイル研究所」代表理事所長の竹垣 英信(たけがき ひでのぶ)さんに、子どもが野外活動で学べることや環境ボランティアの大切さについてお話を伺いしました。
自然と触れ合いながら、さまざまな発見をする喜びを子どもたちに伝えたい方は、ぜひチェックしてみてください!
森と人を仲良くさせる「森のライフスタイル研究所」
―本日はよろしくお願いいたします。まず、「森のライフスタイル研究所」とはどのような団体なのでしょうか?
竹垣 英信さん(以下、竹垣):森のライフスタイル研究所は、「森と人を仲良くさせよう・森と人を繋いでいこう」ということを目的に活動をおこなっているNPO法人です。
―どのようなきっかけで活動を始めたのでしょうか?
竹垣:昔、真夏に西新宿あたりを歩いていた際に、ふと周りを見たら木などの緑がとても少なく感じたんです。
汗だくで疲れているのに、木陰でちょっとした休憩もできないその光景を目の当たりにして、「これは街の中にもっと緑を増やしていかなければいけない」という思いが急に湧き、活動がスタートしました。
しかし、「適地適木」という言葉があるように、渋谷や新宿といった街に「どんな木が何本いるのか」という基準が知りたくて大学の先生たちに伺ってみたものの、「そんなものはない」と言われてしまったんです。
ただ、ある大学の先生が「森になら基準がある」ということを教えてくださり、「それならば森に行こう」といった経緯で現在の活動に至ります。
活動場所を移してみたところ、「この森ならこの樹種が育ちやすい」というデータや、地権者の方の「こんな森にしてほしい」という要望などがあったことで、活動の目的が明確になりました。
環境保全を身近にする参加型プログラム
―具体的にはどのような活動をおこなっているのでしょうか?
竹垣:ここ10年くらいは、千葉県山武市の九十九里浜にて、東日本大震災で失われた海岸林の再生活動に注力しています。
そのほかにも、八王子にあるいくつかの里山のなかで、田んぼを作ったり、畑を耕したり、暗い森を明るくするなどの活動もおこなっています。
―子どもが参加できるようなプログラムには、どのようなものがあるのでしょうか?
竹垣:プログラムでは子どもと同じ目線に立って、子どもたちに興味を持ってもらえる活動内容を考えています。
具体的には、千代田区の竹橋と大手町にあるビルの屋上で「子どもの野菜畑」という菜園をしています。
子どもたちに植え付けから収穫・調理までをしてもらう「子ども食堂」を開催するんです。
そのほかにも、代々木公園や八王子にある山の公園で「ツリークライミング」もおこなっていますね。
「ツリークライミング」は、木からロープを垂らし「ハーネス」というロッククライミングに使う専用の器具を用いて、自力で木を登っていくとても人気のイベントです。
―代々木公園などの身近な場所でもできるのですか?
竹垣:50年以上の歴史がある代々木公園で初めての試みだったようで、実現できたことがとても嬉しいです。
環境保全活動や社会貢献をしたいと考えたときに、「したいこと」と「実際にできること」には、理想と現実との差が生じてしまうことがあります。
だからこそ、そのイメージをくつがえせるような機会を提供することで、これまで以上に多くの方が社会に貢献できるきっかけになると考えています。
それが「社会を変える、世の中をよくしていく」という力にもつながっているんです。
私たちの活動ではそういった気持ちを大切にしながら、人々にとって身近な環境を使用できるように、日々あの手この手で開拓しています。
自信や責任感が芽生える大きな体験
―野外活動に参加すると、子どもたちはどのようなことを学べるのでしょうか?
竹垣:子どもたちが、自信と責任感を持てるようになります。
「木に登れた」「自分の力で木を1本伐れた」など、どんなにささやかなことでも子どもにとっては成功体験に感じられるものです。
また、木を植える野外活動では、「自分たちが木を10本植えたから、この森は10本の木が育つんだ」と、子どもたちの満足感にもつながっているようです。
このような体験によって、子どもたちは「自分ってこんなこともできたんだ」と自信を持てるようになり、自己肯定感が高まり、さまざまなことに積極的に関わっていくきっかけになるのではないでしょうか。
野外活動の場合、失敗したとしても自分の責任なので、子どもが責任転嫁できない状況は、子どもの成長に必要なことだと思っています。
子どもが自己成長できる「ボランティア教育」
―「ボランティア教育」について具体的に教えてください。
竹垣:活動しているプログラムには、受験を控えている子どもが参加していることがあります。
その際は、「どのようなボランティアを、どのくらいの時間おこなったか」などの内容を必要に応じて紙に書いて渡しているんです。
受験のためにボランティアへの参加を推進するのはとてもいいことだと思います。
実は、受験だけが目的になってしまっている子どもは、「やらされている感」のような自発的な参加ではないので、最初は活動に消極的になりがちなんです。
でも、実際に森に入って木を1、2本伐ってみると、陽の光が差し込んで明るい環境になり、木を植えればその分きれいな森が広がったりと、自分の活動がすぐに結果となって現れます。
それが、子どもにとって「嬉しい体験」につながっているのでしょう。
最初は消極的だった子どもたちが嬉しそうな表情で喜んでいるんです。
その姿を見ると、私たちも嬉しくなります。
ボランティアでは、子どもが今までとは違った自分を発見することにもつながり、受験に有利なだけでなく、自己成長の場にもなっているのだと思います。
―ボランティアを通して学びの機会を増やしていくために、教え方や工夫しているポイントなどはありますか?
竹垣:なるべく答えはすぐに教えないようにしています。
子どもが自分で答えにたどり着くまでのプロセスが大切だと思っていて、自分で考える時間をあえて与える方法です。
スタッフ側も回答を言わないでいるのはもどかしいのですが、そこは子どもたちのためにじっと耐えています。
そのほかには、危険予知能力を鍛えられるように工夫しています。
自然環境には、危険がつきものです。
安全な室内ばかりにいると、外に出たときに危ないことをしてしまう子どもが多くいるんですよね。
そのため、野外ボランティアでは、自然環境のなかで危険を上手に避けるための知恵を学んでもらっています。
受験ももちろん大事ですが、人間として生き抜く力を身につけてほしいですね。
新鮮な体験ができる「ツリークライミング」
―これまでで一番反響があったプログラムを教えてください。
竹垣:子どもに一番人気があるのは「ツリークライミング」です。
毎回参加枠があっという間に埋まります。
日常生活のなかだと、常に足に重力がかかっていますが、「ツリークライミング」で木の上に登ると、体が自由になれるような非日常感を味わえるんですよね。
子どもたちにとって、普段は自分の身長以上のものは見えなかったりするなかで、視界が開けて新鮮な光景を見られる体験は、いつもと違った視点で物事を考えるきっかけにもなると思います。
―実際に参加した子どもや保護者の方からは、どんな声がありますか?
竹垣:ありがたいことに「また来ます」という声や、youtubeでツリークライミングの動画を視聴したときには難しそうに感じたものの、実際に体験してみたら「自分がこんなに登れるとは思わなかった」といった嬉しい感想をいただいています。
「全部自分でできた」という経験が、子どもたちに大きな影響を与えているのでしょう。
そのほかにも、ツリークライミング以外の「木こり体験」でも、「楽しかった」などたくさんの声をいただいています。
ノコギリを使って木を倒すような機会は日常生活ではあまりないと思いますし、そのなかで好きなだけ木を伐っていいという環境は、子どもにとって今までにないワクワク感があると思います。
伐る大変さからはじまり、ノコギリで木を伐るときの音や木が倒れていく様子など、そういったリアルな体験が、子どもたちの心に強く残るようです。
野外活動を通して子どもたちの成長を願う
―最後に、教育における野外活動の大切さについて教えていただけますでしょうか。
竹垣: 野外活動には正解があるようでなかったりします。
だからこそ、野外活動をすることで、子どもたちが自分で考えて答えを見つけていく力を身につけられるのだと考えています。
野外活動は自然が関わることなので、時期やタイミングによっては、その場で環境が変わることが多く、今日・明日・1週間後と自然環境がすべて違ってきます。
そのときに求められることは、その都度自分をアップデートして、その場の環境に対応していくことです。
自然環境を通した教育では、そういったことがしっかりと子どもたちに「自分ごと化」して届けられるのが大きなメリットなのではないでしょうか。
学校の授業とは違って、課題設定からアプローチまでを自分でおこない、「こうすれば解決できるんだ」という成功体験を遊びのなかで学んでほしいと願っています。
私たちの提供する活動やプログラムが、子どもたちの「人としての成長」に貢献できれば幸いです。
―本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
■取材協力:森のライフスタイル研究所