世界の最貧国のひとつである東アフリカの「マラウイ」。
悲しいことに、マラウイの子どもたちの約64%は、栄養失調などが原因で5歳の誕生日を迎えることができません。
そんな子どもたちをひとりでも多く助けるために、NPO法人「せいぼじゃぱん」はマラウイの学校給食を支援しています。
今回は、「せいぼじゃぱん」代表の山田真人さんに活動内容や取り組みについてお話を伺いました。
日本ともつながりのある「マラウイ」を支援
ー本日はよろしくお願いします。まずNPO法人「せいぼじゃぱん」とはどのような活動をされている団体なのか教えてください。
山田 真人さん(以下、山田):私たちは、東アフリカのマラウイという国に住む子どもたちの学校給食支援をしています。
具体的には、現地スタッフ7名が、南部と北部の幼稚園や小学校、CBCCという地域の方々が自ら運営している子どもセンターなどへの給食支援です。
ーほかに、どのような活動をされていますか?
山田:日本の学生を対象に、オンライン留学を提供しています。
「せいぼじゃぱん」と提携している、モベルコミュニケーションズというイギリスの通信会社が、チャリティ事業として実施しています。
同社が持っているイギリスやマラウイ、ポーランドなどとの国際ネットワークが基となっていまして、コース内容としては、まず同社の社会貢献事業やチャリティの姿、理念などを紹介します。
そのうえで、ビジネス英語や社会課題の提供、統計学などを通したリサーチのやり方などを学ぶことができます。
オンライン留学の参加者がプレゼンをし、企画・発信する機会もありますよ。
ちなみに授業料の利益は、すべてマラウイでの給食支援活動やコミュニティ開発に充てています。
ー日本とマラウイ、両方で活動されているのですね。「せいぼじゃぱん」を設立された経緯を教えてください。
山田:2000年頃のことになりますが、モベルコミュニケーションズの現社長である、トニー・スミスがマラウイに行きました。
そのときトニーは、現地のおばあちゃんに「この国には何が必要ですか?」と尋ねたんです。
彼は、お金が欲しいと言われると思っていました。しかし、その女性はこう答えたんです。「Jobs」、つまり仕事が必要だと。
マラウイでは総人口の半分程度が24歳未満の若者ですが、その若者たちが仕事を必要としていたんですね。
マラウイの人たちが、余裕のない暮らしのなかで、目先の利益でなく、長期的な展望を持っていることにトニーは感銘を受けました。
そこで彼は、マラウイに「ビーハイブ」という職業訓練センターを設立し、現地の方々に仕事や教育の提供を始めました。
一方、私たちは日本で、東日本大震災後に岩手県遠野市の町おこしで、遠野市で収穫した米粉をマラウイに送るというプロジェクトを実施していました。
しかしその後、2015年にマラウイで大洪水があり、特に5歳未満の子どもたちの被害が甚大でした。そこで改めて学校給食の大切さを思い知ったんですね。
私たちの遠野市でのプロジェクトが終わった後、それを引き継ぐような形で、マラウイの現地スタッフと一緒に学校給食のための団体を作ろうということになり、「せいぼじゃぱん」が誕生しました。
実は東日本大震災のとき、マラウイのロータリークラブから日本へ支援金を送っているんですよ。
そのようなつながりもあって、2016年に設立したのが
NPO法人「聖母」です。
ーなるほど、そのような経緯があったのですね。「せいぼじゃぱん」は事業としてどのように成り立っているのですか?
山田:先ほども紹介した、モベルコミュニケーションの利益の一部が「せいぼじゃぱん」の活動資金となっています。
モベルコミュニケーションは海外旅行者向けの携帯電話や訪日外国人のためのSIMカードなどを取り扱っている会社です。
同社のプロジェクトの収益が「ビーハイブ」や「せいぼ」の資金に充てられています。
ー日本で受け取られている寄付金の100%を給食支援に使われているとのことですが、一般的なNPOの場合はどうなのでしょうか?
山田:まず前提として、モベルコミュニケーションは利益の90%以上をチャリティーに回すという方針を持っています。
それとは別に、寄付していただいたお金は100%「せいぼじゃぱん」に送っています。
一般的な団体では、チャリティーで得た収入の一部を活動費に割り当てる必要があります。
しかし、私たちはモベルコミュニケーションの支援があるので、資金を活動費に回すことなく、100%寄付に回すことができるんです。
日本とマラウイ、それぞれの場所で活動するボランティアスタッフ
ーせいぼじゃぱんのボランティアスタッフの活動内容について教えてください。
山田:「せいぼ」には、マラウイで活動するマラウイ人のボランティアスタッフと、日本国内で活動するボランティアスタッフがいます。
マラウイのボランティアスタッフは、学校給食を朝から作っています。
スタッフ自身も学校で食事をすることができ、その学校に通っている自分の子どもも給食を食べられます。
給食を作るほかに、学校で先生として協力してくれているスタッフもいます。
彼らが生きていく上で、安定して食事が摂れることはもちろんですが、地域とのつながりを持つことがとても重要になります。
あまりに家にとどまっている状況が続くと、構造的にソーシャルエクスクルージョン(=社会的排除)が起こり、共同体に居づらくなってしまうんです。
だからボランティアとして働く、学校へ行くということが、彼らの社会的立場を安定させるひとつの要素となるんですね。
ボランティアには女性が多いので、ジェンダー問題解決の糸口にもなりますし、彼らの働きによって、子どもたちの教育にも見通しができるという側面があります。
ーわたしたちが考える以上に、マラウイの方たちにとってボランティア活動は重要なことなんですね。
山田:そうですね。ただ、最近は新型コロナウィルスの影響で、ボランティアのモチベーションが下がりつつあります。
そこでモチベーションを維持するために、「子どもたちの成績がどれくらい伸びたか」「給食の衛生管理ができているか」といった活動内容を評価して、景品を贈るなどの取り組みをしています。
ー日本国内でボランティアスタッフはどのような活動されていますか?
山田:日本では、私立の学校と提携してフェアトレードコーヒープロジェクトをおこなっています。
これは、マラウイのコーヒーを貿易会社に仕入れてもらい、そのコーヒーを日本で販売し、そこで得た収入を現地に送るという取り組みです。
ボランティアに参加した学校の生徒は、フェアトレードコーヒーについて勉強したり、商品のプレゼンテーションや販売を実際におこなうことで探求学習ができます。
新型コロナウィルスが流行する以前は、中学生 ・高校生に地域のマルシェへ参加してもらったりしていました。
現在は、現地から届く情報を日本語に翻訳してもらったり、せいぼじゃぱんの活動を日本国内に広めるためのオンラインのボランティア活動をしてもらっています。
国内のボランティアスタッフが受けられるメリットは、さまざまな経験ができることですが、現在は実際の人と人との交流体験があまりできないですよね。
そんななか、オンライン留学やマラウイについて学ぶことで、得られるものがあるのではないかと思っています。
ちなみにオンライン留学が終わると、企業としてインターンシップ修了証というものを出しています。
それを生徒が推薦入学に使えるというメリットもあります。
また、放課後活動などの社会貢献グループに対して、国際協力の題材を提供できるというのもメリットですね。
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ー今後、開催予定のイベントがあれば教えてください。
山田:オフラインのイベントは少なくなっており、現在は主にオンラインでの講演会などが中心になっています。
そこでマラウイの現状やマラウイ産コーヒーを紹介をしたり、フェアトレードについての勉強会をおこなったりしています。
また、オンラインの物産展にもマラウイ産のコーヒーを出品させていただいたりもしています。
それから、2年前に「風をつかまえた少年」というマラウイの貧困問題を扱った映画が作られまして、その映画の上映会場でコーヒーを販売するなど、コーヒー関連イベントを不定期におこなっています。
この映画は実話をもとにして作られていまして、前半は現地の貧困の状態や、人々がどんな問題に苦しんでいるのかを知るためのエピソードが入っています。
後半、主人公のウィリアム・カムクワンバくんが図書館で理科の本を読み漁り、自分のお父さんの自転車を使って自作の風力発電機を作ります。
その発電機で、干ばつに苦しんでいる村に水を引いてくるんです。ちなみにこの映画のストーリーは、日本の英語の教科書にも掲載されているんですよ。
映画をご覧いただくと、マラウイの現状が少しはイメージしていただけると思います。
またイベントについては、「せいぼじゃぱん」ホームページの「イベント講演会情報」に詳細を掲載していますので、ご興味がある方はぜひご覧ください。
マラウイを支援するには?日本に住むわたしたちができること
ー「せいぼじゃぱん」の寄付先にはどんな団体がありますか?
山田:「せいぼじゃぱん」としては、同じグループの「せいぼマラウイ」という現地の法人に100%寄付をしています。
「せいぼマラウイ」は、先ほど紹介した職業訓練センター「ビーハイブ」の近くを拠点に学校給食プロジェクトを実施しているので、そこでの活動費になっています。
また、山間部にある複数の小さいコミュニティーベースへの給食支援もおこなっています。
学校給食だけでなく、インフラや教室の整備、保育士の養成などの費用も支援しているんですよ。
また、そこと同じチロモニ地区のなかに小学校を建設中です。そこにはオンライン留学で得た資金を充てています。
同校では、もっとも貧しい子どもたちが学校へ通うために、3通りの学費体系があります。
完全に奨学金で学校へ通う最貧困層、学費の半分を自分たちで支払うことができる層、すべての学費を自分たちで支払える層の3つです。
この構造を取ることで、学校は持続して活動することが可能になりますし、幅広い人々に対する教育の実施を目標としています。
ーありがとうございます。一般の方が個人で支援したい場合は、どのような方法がありますか?
山田:個人の方の支援には、方法が2つあります。
ひとつは、「せいぼじゃぱん」公式サイトの支援用のページから寄付をしてもらう方法です。
寄付をされた方には、「せいぼじゃぱん」の最新情報などをニュースレターで提供しています。
もうひとつは、「せいぼサポーター」という制度があり、年間3,000円(子どもひとり分の1年間の給食費)を払うという方法です。
これはニュースレターのほかに、せいぼサポーターとして理事会に参加できるほか、議決権、活動の仕方についての発言権を得られたりします。
ー自分の発言権をもって関わりたい方は、せいぼサポーターとして支援するのがよいのでしょうか?
山田:そうですね。あとはマラウイのコーヒーを買うという形で、寄付をおこなうこともできます。
コーヒーで得た収入は、100%マラウイの学校給食支援に充てられます。
「ウォームハーツコーヒークラブ」というサイトから購入することができます。飲み比べセットなどいろいろな商品があります。
月に1回~2回の定期便もあるので、その場合は定期寄付という形になりますね。
日本にチャリティーが根付くことを目指して
ー「せいぼじゃぱん」の今後の展望について教えてください。
山田:最近は日本でも「エシカル」とか「フェアトレード」とかいう言葉が身近になってきましたよね。
驚くことに、2020年は過去で最も寄付額が増えた年の一つでした。
そういったことからも、社会貢献事業やサスティナブルを意識した世のなかに少しずつ変わってきているのを感じます。
商品を買う際、その裏側のストーリーをしっかり見てから購入される方が増えてきたのかもしれません。
消費者の意識が変わりつつあるなかで、現地でのエピソードを身近に感じてもらえるように働きかけ、活動を広めていきたいと思っています。
将来的には、日本にチャリティーが根ざすように働きかけていきたいですね。
ー最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
山田:
NPO法人「聖母」は、マラウイから始まったチャリティームーブメントです。
マラウイのコーヒーを購入したり、オンライン留学をしたりと、さまざまな形でボランティアに関わることができます。
コロナ禍で何かと閉ざされてしまうところも多いのですが、そんななかでも私たちはできることを見つけ、皆さんと一緒に前に進んでいければと思っています。
公式サイトやYouTubeなどで情報を発信していますので、ぜひ活動に参加していただけたら嬉しいです。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:NPO法人 せいぼじゃぱん