2001年に設立された「大雪山自然学校」。人と自然が共存する豊かな暮らしを目指して活動しています。
環境保全活動はさまざまなところでおこなわれているものの、自然を守る仕組みがなかなかうまく成り立っていない現状。
自然との触れ合いを通して、少しでも環境保全に興味を持ってくれる人を増やすことが必要です。
今回は、NPO法人「大雪山自然学校」の藤木 加奈子(ふじき かなこ)さんに、具体的な活動や今後の展望について詳しくお話を伺いました。
環境保全の取り組みに興味がある方や、教育の一環として子どもに自然との触れ合いを体験させたい方は、必見です!
北海道を中心に活動する「大雪山自然学校」
ー本日はよろしくお願いいたします。まず、NPO法人「大雪山自然学校」を設立された経緯を教えてください。
藤木 加奈子さん(以下、藤木):代表理事の荒井一洋(あらいかずひろ)が大学卒業後、自然に関わる仕事をしたいと2001年にNPO法人ねおすの東川支店として大雪山自然学校を設立したことがきっかけで、2015年にNPO法人「大雪山自然学校」となりました。
当初は、ガイド業からスタートして、町から環境教育のプログラムづくりの仕事を受けるなどしていたんです。
その後、現在おこなっている自然体験やキャンプ、大人の自然講座など幅を広げ、今では北海道全土でさまざまな活動をおこなっています。
ー活動の拠点はどこになるのでしょうか?
藤木:活動は北海道が中心ですね。現在では、地域の魅力を観光客に伝えることで環境保全につなげていく仕組み「エコツーリズム」が全国的に広まっており、世界各国から来た海外の方を受け入れるなどの活動にも力を入れています。
海外からは、旅行だけではなく、日本の自然や環境教育を学びに来る方も多いですね。
環境保全につながる総合的な取り組み
ー続いて、「大雪山自然学校」では、どのような活動をされているのか教えてください。
藤木:私たちが取り組んでいることは、おもに「環境保全活動」「子供自然体験活動」「交流推進活動」「人材育成活動」の4つです。
環境保全の面では、大雪山国立公園旭岳周辺における登山道の整備や、登山者への環境保全のためのレクチャー、セイヨウオオマルハナバチといった外来種の駆除、森づくりなどが中心です。
子供自然体験は、小学生を対象に月1回、自然体験プログラムを実施したり、長期休みにはキャンプなどもおこなっています。
また、交流推進活動では、キトウシ周辺での健康プログラムや、大雪山をフィールドとしたエコツアーのガイドなども実施。
そして、人材育成活動については、自然案内人の養成講座の開催や大学の実習、研修生・インターンシップの受け入れなどを積極的におこなっています。
自然をより身近なところで体験する「子供自然活動」
ー「子供自然活動」として自然体験プログラムなどを実施されていますが、具体的にはどのようなことをしているのでしょうか?
藤木:「イエティくらぶ」という、幼児から中学生を対象とした会員制の自然体験プログラムを実施しています。
「イエティくらぶ」では、「北海道の子どもが体験するべき自然100選」を訪ねるという目的があり、私たちがいる上川エリアを中心に、少し離れた道内各地まで足を運ぶこともありますね。
北海道はとても広大な土地に恵まれているので、道南と道北では全く異なる自然が根付いているなど、同じ北海道民でも見たことない景色がたくさんあるんです。
たとえば、知床の鮭の遡上や、マイナス20度の環境で滝が凍って壁になる様子など、その時期にしか見られない景色までさまざまです。
自然百選では、そういった光景を子どもたちに見せるようにしています。
ー本州ではなかなか体験できないことですね。
藤木:そうですね。私は北九州の福岡出身なのですが、北海道の自然は全く規模が異なって感動が尽きません。
少し凍るくらいなら九州でも目にしたことがあるのですが、北海道の凍り方は水量が違うので、できあがった氷の壁の大きさは本当に見ものです。
自然が作り出した光景を目にするたび、子どもたちと一緒になって心躍らせています。
自分と向き合う貴重な体験
ー自然体験に参加することで、どのようなことが身につくのでしょうか?
藤木:メインは、「野外での専門的な行動技術を学ぶこと」を目的としています。
しかし、やりたいことをやるためには自己責任が伴うので、自然と向き合うなかで「自分の限界を知ること」も身につくのではないでしょうか。
自然は、私たちの力では及ばないことがたくさんあります。
たとえば、天気が悪ければ山登りに行ったとしても中止の判断をしたり、天気が回復すればまたチャレンジしたりなど、状況に応じた行動を取らなければなりません。
体力的にきつければ休憩を取る、水分や栄養を補給するなど、自分の体の様子を見ることも必要です。
また、川で遊んだりするときにも、どこの深さまで行けるか、どのくらいの幅なら飛び越えられるかなど、チャレンジするなかで成功や失敗を積み重ねて多くのことを学びます。
そういった判断や経験の繰り返しによって、「社会で生きていく術」を身につけてくれたらと思っています。
実際の体験からの学びが、子どもたちを大きく育ててくれます。
―子供自然体験活動でキャンプをすることには、どのような目的があるのでしょうか?
藤木:キャンプのプログラムでは、自然に触れ合うことももちろん大事ですが、それ以上に、違う年齢の子どもたちとのふれあいを重視しています。
プログラム参加中は家族のように過ごすので、きちんと協力しないとご飯も食べられません。
大人でも、家族以外と生活するのは大変なことです。
子どもたちにとっては、自分のエゴを抑えなければいけないので、さらに難しく感じるでしょう。
そんな普段とは異なる状況のなかで、自分の思いを伝えたり、相手の気持ちを受け止めたりしながら、他人との関わり方を学んでほしいと思っています。
スタッフの感動体験が子どもたちの活動につながる
ー自然活動の内容は、どのように決めているのでしょうか?
藤木:「北海道の子どもが体験するべき自然100選」に関しては、私たちの組織にはプロの自然ガイドがいるので、各地を回って「これはどうしても子どもに見せたい」といったものをピックアップしています。
そして、実際に目にすることができる時期に下見に行き、その瞬間にしか見られない「今だ」というタイミングで、子どもたちを連れていけるようプログラムにもこだわっています。
情報を集めるときは、多くのガイドさんに話を聞いたり、実際にスタッフが各地を訪れたりして、自分たちが感動したものを子どもたちにも伝えるようにしているんです。
ー大自然には危険な部分もあると思うのですが、なにかサポートはされているのでしょうか?
藤木:体験をスタートする前に、一通りのリスクは伝えています。
ただ、活動中にちょっとした怪我をしてしまったり、「こういうことをすると危ない」と身をもって感じたりすることは、子どもたちにとって貴重な経験にもなります。
そのため、本当に危ないときは注意しますが、大ごとにならない範囲であれば自分で判断させることも必要なのではないかと。
大きく印象に残る経験が「考える力」につながっていくと思うので、何でも先回りしてやらせないのではなく、子どもたちが自ら考えて行動してもらうことを意識しています。
自然体験が子どもの学びを広げる
ー今までの自然活動のなかで、一番記憶に残っていることはありますか?
藤木:最近だと、美唄市の石狩川付近にある宮島沼に、マガン(真雁)の飛来を見に行ったことですね。
マガンは、ガンの仲間に属する渡り鳥のことです。渡り鳥なので、北海道ではロシアに渡る前の栄養補給などをして休むために、宮島沼に1ヶ月間ほど滞在しているんです。
ちょうど4月頃のことで、約6万羽のマガンを見ることができました。
朝になると、マガンが日の出とともに一斉に飛び立っていく様は圧巻です。
そのときに参加していた子どもには、数を数えることが苦手で、1000以上になると数が分からなくなってしまう子どもがいました。
しかし、6万羽のマガンを見てからは、万や億などの数字の単位にも興味を持ち始めたんです。
一見、自然とはつながらないような数字についても、体験から学ぶことができるのだなと実感しました。
その子どもは、「最初100匹いた」と言っていたのですが、ビジターセンターの方から「今日は6万1200羽いたんだよ」と教えてもらうと、「あれは6万という数で、じゃあ億ってどんな感じなのだろう?」と大きな数字に抵抗もなく自発的に考え始めていて、自然から教えてもらうことは本当にたくさんあるのだなと、私たちも改めて学びました。
子どもは口で説明されるよりも、「実体験の延長線上に、知りたい・学びたいといった興味が広がっていくもの」なのだと思います。
子どもはもちろん大人の方でも、本州では見られない光景なので、ぜひ見に来ていただきたいですね。
自然との触れ合う機会提供の場を目指す
ー今後、どういう活動していきたいかなどの展望についてお聞かせください。
藤木:今後も同じように、子どもたちに自然を身近に感じてもらえるような活動をしていきたいです。
保護者の方がアウトドアに慣れておらず、子どもが自然と触れ合う経験をさせてあげられないという声をいただきます。
自然との触れ合いが少ない子どもにも、私たちが代わりに機会を提供をしてあげられたらなと。
子どもの興味やスキルに合わせて選べるプログラムとして、自然クラフト・山へのトレッキング・2泊3日のキャンプなど、さまざまな用意をしているので、幼児から中学生まで多くの子どもに体験していただきたいです。
その際は、無理をせず気軽に「やってみたいな」と思えるところから参加していただければと思います。
ー最後に、読者へのメッセージをお願いします。
藤木:体験プログラムは、北海道の子どもでなくても参加できます。
ほかにも保護者同伴で参加できるプログラムや、大人のためのプログラムも用意しているので、ぜひ一度お越しください。
コロナ禍で外出が難しい時期ではありますが、野外活動は比較的リスクも少ないほうです。
幼児からシニアの方まで、幅広い方のご参加をお待ちしております。
ー本日は貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。
■取材協力:NPO法人 大雪山自然学校