香川県のNPO法人「アーキペラゴ」は、瀬戸内海にある島々や香川県を中心に、地域を盛り上げる活動をしている団体です。
優れた保育・教育法と世界で注目されている、レッジョ・エミリア教育をお手本にした「芸術士のいる保育所」プロジェクトをおこなっていることでも話題に。
そのほかにも、ビーチクリーンアップ活動や瀬戸内海の島でさまざまな体験・交流ができるツアーなど、多彩なプロジェクトを展開中。
今回は「アーキペラゴ」の代表理事である三井文博さんに、同団体の活動内容や想いなどを伺いました。
子どもの保育・教育に関心のある方やアート好きな方、島に行きたい方も必見です!
瀬戸内海の島々への想いを込めて「アーキペラゴ」と 命名
ー本日はよろしくお願いします。まず最初に「アーキペラゴ」を設立された経緯を教えてください。
三井 文博さん(以下、三井):香川県の産業活性を図る機関「かがわ産業支援財団」にある新事業サポート窓口があるのですが、時間外でも事業相談ができる民間組織として2002年にNPO法人「INS香川」を立ち上げたのが「アーキペラゴ」の始まりです。
岩手や大阪にも土・日曜日に新事業をプレゼンテーションし合う組織があり、その香川県版という形で発足しました。
ー小豆島との繋がりが深い印象を受けますが、何かきっかけがあったのでしょうか?
三井:あるとき、オリーブや柑橘類の生産・販売を手がける小豆島の農業法人「井上誠耕園」の三代目園主である井上さんにプレゼンテーションをしていただいたところ、参加者たちが彼の農業法人スタイル「6次化事業」に興味をもちまして。
そこからみんなで小豆島へ足を運び、井上誠耕園の作業の手伝いや応援活動をするようになりました。
またオリーブの苗木にネーミングライツをし、10年間農園の一員として見守る経済産業省集客交流事業「オリーブ里親制度」の実施を提案し、私を含め井上誠耕園の応援団が増えていきました。
今では井上誠耕園はとても大きな企業になり、当時1人いるかいないかという従業員が100人を超え、顧客数は100万人ほどという、全国を代表する6次化農業法人として活躍しています。
井上誠耕園との出会いは「アーキペラゴ」と小豆島との繋がりを深め、活動の幅を広げる大きなきっかけになったと感じますね。
2007年には東京のシブヤ大学とコラボし「アーキペラゴツーリズム」も企画しました。
3つのコースに別れて島々を巡る「アイランドホッピング」の後、小豆島に集まって意見交換をおこないます。
その翌日に、井上誠耕園で収穫祭を体験をするプログラムだったのですが、参加された方たちから大変好評でした。
ー「アーキペラゴ」という名称にされたのはそのころですか?
三井:瀬戸内海の島々を舞台に3年に1回開催される「瀬戸内国際芸術祭」が改名のきっかけです。
アートディレクターの北川フラム氏を総合ディレクターに迎え、2010年の第1回瀬戸内国際芸術祭開催に向けて実行委員会が発足しました。
そこで私たちもこのイベントを民間組織から支えていこうと、2009年に瀬戸内海の島々への想いを込めて、英語で「群島・多島海」を意味する「アーキペラゴ(archipelago)」に改名しました。
ー三井さんが「アーキペラゴ」のプロジェクトを牽引されるようになるのはどういった経緯から?
三井:「INS香川」発足時は一団体員として参加しただけなのですが、徐々に井上誠耕園さんを引き込んだり、島での活動にみんなを誘ったりするようになりました。
瀬戸内海には淡路島や小豆島をはじめ大小さまざまな有人島がありますが、観光客に人気の「直島」は、昔は閑散とした静かな島でした。
それが1990年代以降、美術館とホテルが一体化した「ベネッセハウス」や、地下に埋設された「地中美術館」の開館などにより、島が活性化し出しました。
島内にはアートオブジェが増えて、今では「アートの島」としてたくさんの方が訪れるようになりました。
アートによって島が変わりゆくプロセスを目の当たりにし、香川には今後も「直島」のようなアートの聖地が増えていくであろうと思いました。
香川県庁舎は建築家・丹下健三氏の最初の出世作ですし、著名な芸術家ゆかりの地や美術館などもたくさんあるんですよ。
「アートや建築は香川の新たな起爆剤になる」という仮説をもとに、提案・展開をしたことが、現在の「アーキペラゴ」の活動に繋がっています。
ー三井さんの人脈や発想も大きな動力になっているんですね。現在はどのようなプロジェクトをおこなわれているのでしょうか?
三井:第1回瀬戸内国際芸術祭で活躍したボランティアサポーター「こえび隊」は、アートやまちづくり活動をおこなうNPO法人「瀬戸内こえびネットワーク」として引き続き活躍しています。
「アーキペラゴ」は瀬戸内国際芸術祭以外にも、瀬戸内を支えるさまざまな活動をおこなっています。「芸術士のいる保育所」や、豊島の産廃現場を見学するなど、観光とは異なる視点で島を訪ねるツーリズム「アーキペラゴ島ゼミ」などを実施しています。
そのほかにも、香川県産品推進室からご相談いただいた「さぬきマルシェ in サンポート」の事務局運営、瀬戸内国際芸術祭を機に発足した「漆の家プロジェクト」運営などもおこなっています。
当副理事長が中心になって取り組んでいる「せとうちクリーンアップフォーラム」では、定期清掃活動のほか、現在問題になっている海のプラスチックごみの発生元や漂着先を調査したりと、パラレルにいろいろな活動をしています。
まさに「多島海」という名の通りの法人になっています。
“芸術士”が子どもの創造力を引き出すための手助けをする
ープロジェクトのひとつ「芸術士のいる保育所」の活動について詳しく教えてください。
三井:「芸術士のいる保育所」は、2009年から続けている保育園・幼稚園などへの芸術士派遣事業です。
イタリア レッジョ・エミリア市発の、ペタゴジスタ(=教育専門家)とアトリエリスタ(=芸術系指導者)の2人でおこなう教育モデルをお手本にしています。
「アーキペラゴ」では、レッジョ・エミリアでいうところの「アトリエリスタ」を「芸術士」と名付け、アートで地域を盛り上げるべく活躍しています。
「芸術士」は、週に1回など決まった日に保育園・幼稚園などを訪問します。
午前中は子どもたちと遊んだり昼食を一緒に食べたりし、午後は先生と相談をしたりドキュメント(記録)をまとめたり、時間があれば子どもたちと遊んだり…というのが主な業務です。
ここで誤解しないでいただきたいのは、「芸術士は絵や音楽を教えるために来るのではない」ということ。
「芸術士」の使命は、子どもたちが自ら提案した遊びを一緒に形にしていくことです。
子どもの創造力を引き出すための手助けやヒントをくれるお兄さん・お姉さんといったところでしょうか。
ー「芸術士」の方が絵の描き方を教えるのではなくて、子どもたちから引き出す役割をされているんですね。
三井:その通りです。「芸術士」には造形を専門にしている者が多いのですが、絵や工作だけではなく、歌やダンス、パフォーマンス、人形劇、舞台作家など、さまざまなジャンルのメンバーがいます。
アート系の仕事をしている方や美術系大学に声をかけたり、インターネットで呼びかけをして10年以上活動を続けるうちに、当初8人だった「芸術士」は26人に増えました。
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オンライン講座「芸術士って何する人なん?」を開催
ー「アーキペラゴ」のプロジェクトに、私たちが参加できるものはありますか?
三井:ひと月に1〜2回、香川県下や各島で、ビーチのクリーンアップイベントをおこなっていますので、ぜひご参加ください。
もちろん、香川の現場に来られるのも大歓迎です。ただ、現在はコロナ禍につき、募集人数を30〜40人に制限しているため、競争率が上がっているのが現状です。
また、島を訪れたいという企業様や、学生さんの研修といった団体向けのツアーコーディネートやガイドにも対応しています。
私たちがご提案するのは、瀬戸内海の島々の民族や歴史、産業の歩みといった、通常の観光では見ることのできない部分を深掘りするツアーです。
ニーズや目的に応じた島選びや案内も可能で、さまざまなこと学んでいただけますのでぜひご相談ください。
ー「芸術士」の活動に興味がある人におすすめのプログラムはありますか?
三井:「芸術士」に関しては、これまで現場を見たいというお声をたくさんいただき、視察も受け入れていましたが、現在はコロナ禍により外部の方をお招きするのが難しくなっているのが現状です。
その代わりとして、「芸術士」の存在や役割を知ることができるオンライン講座、「芸術士って何する人なん?」の開催を予定しています。
「芸術士って何する人なん?」という疑問について深く理解していただくため、現場で活躍する「芸術士」たちが、写真や映像、実践を交えながら、子どもたちとの関わり方をご紹介します。
保育を学んでいる方や教育・保育に携わっている方、「芸術士」に興味のある方はぜひご参加ください。
多様な生き方があるという価値観を持つきっかけに
ー「アーキペラゴ」の魅力や強み、今後の展望をお聞かせください。
三井:多くの企業様からお声がけいただくのは、実は子どもたち用の「遊べる素材」に関してなんです。
お手本はレッジョ・エミリアで採用されている、企業からの廃材が子どもやアーティストへ提供される「レミダ」というリサイクルシステムです。
布や木屑など、企業で大量処分される素材は子どもたちにとっては宝物のプールです。企業・団体様からご提供いただくさまざまな素材は、子どもたちが遊ぶための材料として大変重宝します。
また、「遊べる素材」を活用することが、ごみ問題や資源の活用、素材の循環を考えるよい機会にもなると考えています。
「アーキペラゴツーリズム」で育ったガイドスタッフが、民間(コトバス)オンラインツアーのプロジェクトにおいて、建築会社・大林組様の社員旅行で小豆島をガイドさせていただく機会がありました。
大林組様は先出した香川県庁舎の建築・改修を手がけてくださった、香川県ともゆかりのある企業です。そういった繋がりや縁から発展した活動も多く、今後も大事にしていきたいですね。
また、瀬戸内海の島々は大きさも人口も歴史もさまざまで、当然それぞれに課題も異なります。
「芸術士」がふれあう子どもたちに置き換えると、身体の大きな子もいれば小さな子もいるし、早生まれの子もいれば遅生まれの子もいます。
日本人は「流行を追い、右向けと言えば右を向く」、長らくそんな文化でした。
昨今「多様性の尊重」と言われるように、お互いに認識し、認め合うことが大切です。
発足当初からの哲学である「それぞれの個性を尊重しよう」ということにもつながりますが、島を訪れたり子どもたちと接したりする体験が、「いろんな生き方があっていいよね」という価値観を持つきっかけづくりになればと考えています。
ーでは最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
三井:来年は「瀬戸内国際芸術祭」の開催年です。現代アートが好きな方も、アートはよく分からないという方も、ぜひ海を渡って来てください。
のどかな風景や美味しい食べ物、素朴な島の方々とのふれあいを体感することで、きっといろいろな発見ができ、視野も広がりますよ。
また、時間がとてもゆったりと感じられるのも島の大きな魅力です。忙しい日常から解放されたいと思っている人も島へきて、ゆっくり自分を見つめ直したり、社会を客観的に見つめたりする時間を持つのはいかがでしょうか。
ーお話を聞いて、瀬戸内海の島々を訪れたくなりました。本日はありがとうございました!
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「アーキペラゴ」プロジェクトのなかで、最も注目を集めている「芸術士のいる保育所」のさらに詳しい内容は、Ameba塾探しの公式YouTubeでご覧いただけます。
保育や教育、アートに携わっている方、「芸術士のいる保育所」の活動に興味のある方はぜひチェックしてみてくださいね。
■取材協力:NPO法人 アーキペラゴ